成長期の横山君と相変わらずの一之瀬さん
このお話で最終話です。
が、完全に蛇足です。ただ、どうにも締まりがなかったのであえて足を書きました。
拙作にも関わらず、最後までご覧頂きありがとうございました。
気がつけば、寒さが厳しい季節も半ばになっていた。
学園祭から半年近くの間、僕は毎日のように体が引き裂かれるかと思う様な成長痛に悩まされ、体に合わなかった制服があっという間にぴったりになり、さらにまだまだ身長が伸びそうで、母親が裾上げしていたズボンを直してくれるほどだった。
対する一之瀬さんは、相変わらずあまり大きくないままで、そんな僕にしょっちゅう絡んでくる。
そう、しょっちゅう絡んでくるのだ。
クラスで。
毎日のように僕に絡んでは、のらりくらりとかわされ地団駄を踏む一之瀬さんを見守るのが最早クラスの風物詩になっていた。
何時の間にやら、僕への風当たりは全くなくなり、気がつけば自然とクラスに馴染んでいた。
それにふと気がついた時には、嬉しくもどこか面映ゆい思いをしていたが、高橋君から「僕と一之瀬さんが付き合っている」という噂を聞かされた時には、学園祭以来、僕に対して特に何も言ってこない加瀬君や、今まで通りに話しかけてくれる立花君に尊敬の念を抱かずにはいられなかった。
同時に、クラスに馴染んだとはいえ、まだまだ人の気持ちに疎い自分がひどく矮小に思えて、少しだけさびしい気持ちにもなった。
そんな時は礼拝堂に行く。
神父さんと世間話をすることもあれば、ただぼーっとステンドグラスの色やパイプオルガンのパイプが反射する金属沢を眺めたりする。
とにかく、学校の賑やかさから僅かとはいえ隔絶された静謐な空間で過ごすことで心を落ち着けるようにしていた。
普段は、ここで気が済むまで座っているのだが、今日は珍しく人がやって来た。
「ここにいたんだ。」
誰だろうと思っていたが、一之瀬さんだった。ベージュのハーフコートにピンクのチェックのマフラーがぴったりだ。
通路を挟んで僕とは反対側、正面向かって左側の最前列に座る。
僕の隣に来て座るのが常なのに、いつもとは違う距離と一之瀬さんの行動に少しだけ気落ちした。
様子もなんだかいつもと違う。
「どうしたの?なんか、元気ない?」
「そんなことないよ、なんで?」
「いや、なんとなくだけど。」
一之瀬さんは横に置いた自分のバックを膝に乗せ、中を探る。
その時に、引っかけたのか、コートの袖のボタンが外れて転がった。僕は立ちあがって、祭壇の前に転がっていったボタンを拾い上げる。顔を上げると一之瀬さんが目の前まで来てた。
「はい。」
ボタンを渡そうとするが、僕から視線を外したまま動かない。
「どうしたの?やっぱりなんか、様子が変だけど?」
どうしたものかと考えを巡らせていると、ぼそぼそっと何かを一之瀬さんは何か言った。
「ん?ごめん、良く聞こえ…。」
「そろそろ、覚悟はできたんでしょうね?って聞いたの!!」
思いもよらず、とっさに返事ができなかった。
「だって、3年なったら多分クラス変わるし、高等部に上がっても結局、科が別れるだろうし。」
と、うつむき加減になってしまった。前よりも身長差が開いたせいで、一之瀬さんの表情を見ることができない。
「一之瀬さん...。」
何も言えずに名前だけを呼ぶ、と、どすっと何か押しつけられた。
リボンのついた紙袋。
わずかに開いた口から見えるのはラッピングされた茶色い物体。
―そうか、明後日はバレンタインだけど、今年は休日だったんだ―
「一之瀬さん。」
今度は、はっきりと名前を呼ぶ。
「僕はあんまり人の気持ちとか察することが得意じゃなくて、そのせいで嫌な思いするかもしれない。でも、...。」
祭壇の奥の聖母子画が僕らを優しく見降ろしている。
「一之瀬さんともっと一緒にいたいって思うよ。一之瀬さんのこと、好きだから。」
「一之瀬さんのこと、好きだから。」
横山君の言葉が耳に届いても、頭が追いつかなかった。横山君がぎこちなくでも優しく笑っている。
だれが誰を好きだって?
言ったのは横山君。
一之瀬さんは、あ、あたしだ。
顔が一気に熱くなって、目の周りはもっと熱くなって、ぶわっと涙が出てきた。
横山君が目の前で慌てている。
「よ、よ、よこっ。」
もう何を言っていいのかすらわからない。一之瀬さん、落ち着いて、と横山君が必死に慰めようとしている。動揺した横山君の姿がなんだか珍しくって、笑ってしまった。
「もう一回。言って?」
少し困らせてみたくて、そう言ってみる。
横山君は一瞬動きを止めて、あたしをまじまじと見た。もう一度、あたしが好きな優しい顔をしてくれた。
と、その優しい顔が近づいてきて、あたしは動けずに固まってしまった。
左の頬に温かくて柔らかい何かがほんのちょぴっとだけ触れる。
そして囁き程度の、でもはっきりとした声で。
「一之瀬さんのこと、好きです。」
と、耳元で聞こえた。
真っ赤になっているのが分かる。横山君も照れたようにはにかんで笑っていた。
半年前とは違い、今度こそ新郎新婦の立ち位置で、あたしたちは絵の天使達が見守る中、見つめ合った。
ゴツッ、バサバサバサッ。
雰囲気ぶち壊しの音が聞こえてきたのは、控室からだった。
音の原因を思いついたのか、一之瀬さんは控室へと走り、乱暴にドアを開けた。
「ファーザー!!!!!」
ドアの向こうではダメージを食らったように、壁に手をついてうなだれる神父さんの姿があった。
「し、神父さん?」
ゆらり、と神父さんが顔を上げて僕の両肩に手を置いた。ぎゅーっと、両肩に置かれた手に力が加えられる。
「いだっだだだっ。」
神父さんの顔がこの上ない慈悲を持った笑顔になり、同時に僕の背中にはかつてない悪寒が走った。
「うちの娘に、手、出しましたね?」
.........
「は?」
「ちょっと、父さん!!じゃなくてファーザー!ああっ、もう!!何のぞき見してんの!!最低っ!父さんのばかっ!!洗濯物別にするからね!!!!」
「うちの娘」に僕が手を出したという神父さん。
その横で、神父さんを父さんと呼び、必死に腕を引きはがそうとする一之瀬さん。
え?
「親子?」
「もう、横山君、行こう!せっかくだし、初デートしないと。」
茫然としている間に、一之瀬さんに無理やり腕を引かれ、礼拝堂から引きずり出される。
「りんこさん!父さんは認めないからなああっ!門限は5時だからなあっ!!」
後ろで神父さんが叫んでいるのが聞こえて、一之瀬さんと思わず顔を見合わせて笑ってしまった。
冬晴れの青空の下。
ほんの少しだけ、つぼみが膨らんだ桜の木が見守る中、僕と一之瀬さんは、しっかりと手をつないで外へと飛び出した。
春はもうすぐだ。
ご覧いただきありがとうございました。
初めて連載をしたので、読みづらい部分など多々あったと思いますが、どうぞご容赦ください。
このお話は元々、青田が高校生の時に勉強する傍ら書き留めていた物です(笑)
この頃(今もそうですが)何にでも一生懸命頑張っている一之瀬さんは、なりたい女の子の理想像でした。
実は、ピアノだけ弾ければ周りなんて関係ないと熱中している横山君もまた青田のなりたい姿です。
中学生や高校生の頃になにか一つ一生懸命になれるものを見つけられたら、きっと素敵な経験になるだろうな、と思いながら書きました。
もちろん、高校生の時はそんなことは考えていませんでしたが。
お気に入り登録ありがとうございました。励みになりました。
また感想など頂ければ、小躍りして喜びます。
また、ぽつぽつと投稿していきますので、今後もどうぞ御贔屓に。
青田早苗




