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横山君と一之瀬さんの天気模様  作者: 青田早苗
横山君と一之瀬さん
10/17

横山君と一之瀬さんの学園祭1

 げ、と僕は思わず足を止めて壁の陰に隠れる。

 姉がいつもの二人と一緒に学園祭に来ていたのだ。

―そういえば、優子さんはここの中学の出身だったかもしれない―


 一女の見た目は華やかな高校生が3人もいると、来ている他の高校生は勿論うちの学校の生徒の目も引く。本当に勘弁してほしい。

 しかも、中学生に変な対抗意識を持っているのか、3人ともいつも以上に髪や化粧に気合が入っていた。

 そしてきょろきょろしているのは、きっと僕を探しているのだろう。さっさと音楽室に逃げた方が良さそうだ。回れ右をした瞬間、いや、45度回ったとき、見つかった。


「あーっ、いたよー!!」

 せめて、叫ばないでほしかったです、美香さん。

「せいやったら、逃げてたでしょ?さ、案内しなさいよ。」

「それだったら、優子さんが知ってるでしょ?わざわざ僕が案内しなくても...。」

「だって、内容とか見どころとかは、年で変わるし、分からないじゃない。」

 名前に沿った優しげな笑顔で微笑む優子さんが、悪魔に見える。


「いや、でも、これから明日の練習あるから。」

と、口を滑らせた事を僕は後悔した。三人は、きょとんとした顔を向けて、口をそろえて聞いてくる。


「何の練習?」

「えっと、合唱部のピアノの伴奏を頼まれてて...。」

 せっかく母には、学校をさぼってまで練習をしていたのを姉には秘密にしてもらったのに台無しだ...。




 練習の時間なのに、横山君が来ない。ケータイ持ってないってこういう時困るんだよね。発声練習をしてもらっている間、探しに行った。あたしはというと、昨日まで散々ピアノを弾いていたので、合奏までは強制的に休まされた。

 案内所の前に、一女のきれいなお姉さんが固まっていて、思わず目を向ける。


 そのかたまりの中心には

 横山君。


 そういえば、あの三人は前にも一度横山君といたかも。

 三人とも目を引く容姿をしているし、その三人と、最近もっさりモードから眼鏡男子モードになった横山君が囲まれている様子は、目の保養になった。周りの生徒も何事かと見ている。

 

 その瞬間。


 三人の中でも一番きれいなお姉さんが、横山君の頭をぐりぐりと撫でまわす。その上、横山君に抱きついたのだ。仲良しなその光景に、思わずむかっとして、気がついたら大声で横山君を呼んでしまった。




 実は、僕がピアノをやめたのを誰よりも残念がっていたのは姉だった。

 両親は、思春期に入った男の子の言うことだし、興味も移るだろうと予想していたんだと思う。やめる、といった時も残念そうにはしていたが、頷いていた。


 しかし、姉は違った。大ゲンカになったくらいだ。

 姉もピアノは弾けるが、あくまで趣味の領域を出ることのない腕だった。本人もそれは十分、理解していた。

 だからこそ、それなりに可能性がある僕がやっているのを見て喜んでいたし、僕に期待をしていたんだと思う。


 それなのに、僕はある日突然止めると言いだした。しかも、やりたくないとか、挫折したとかではない理由であることを姉は知っていた。だから辞めると言った時には、姉は本当に怒っていた。


 今回の伴奏の事も言おうかどうか迷っていたのだ。

 伝えると、やはり嬉しかったらしく、髪をぐしゃぐしゃにされた。それは良いのだけど、お願いだからこの目立つ場所でやるのをやめてほしい。


―うわっ、ちょっと抱きつくな!!―


「横山君!!」

 一番、今、いてほしくない人の声がした。

―ああ、ほら、一之瀬さんに見つかった―

 思わず、全身から力が抜けた。




「横山君!!」

 思ったより大きな声で叫んでしまったが、気にせず駆け寄る。


 すると三人の中で一番背の小さい人が

「聖夜くんったら、彼女?やるじゃん。」

と、からかう。名前で呼んでいることをちょっとだけうらやましく思いつつも冷静に返答を返す。

「そういうのじゃないです、ピアノの伴奏をお願いしたんです。横山君、練習の時間なんだけど、来られそう?」

 横山君が、ぶんぶんと勢いよく首を縦に振った。伴奏のほうがこの場にいるよりは良いのだと分かり、何とはなしに嬉しくなる。


と、一番の美人さんが、私をじ~っとみていた。

「もしかして…りんこちゃん?」

―はい?―

 何故あたしの名前を?と思ってまじまじと美人さんを見る。


 じっくりと見て気がついた瞬間、かなりショックだった。聖夜君とそっくりな顔してるじゃない、このお姉さん。聖夜君とそっくりな美人なお姉さんと言ったら、一人しかいないじゃないか。

「香織おねえちゃん?」




 一之瀬さんの口から姉の名前が出てきた時は、本当に驚いた。しかも、「かおりおねえちゃん」の呼び方には何となく覚えがある。と、「せいやくん、やめないで!!」と僕にすがった一人の小さな女の子の顔とが浮かんできた。

 あっ、と小さく息を飲んだつもりだったがしっかり聞こえていたらしい。

 4人が、こちらを見る。


「もしかして、りんごちゃん?」

 それを聞いた瞬間、一之瀬さんと姉が同時に噴き出した。

「やっぱり、勘違いしてたんだ。いつになっても本名呼ばないから、もしかしてりんごっていう名前だと思ってるのかと。」

「違う!!りんこだからね!!」

 一之瀬さんが本気になって膨れていた。いや、さすがに今は凛子だって知ってるから。


「ごめん、分かってるけど。それに、あの、随分小さかったからまさか同い年だとは...。いだっ。」

 思いっきり、一之瀬さんが僕の右足を踏んだ。

 一之瀬さんは、昔から平均よりも頭一つ小さい身長だったし、今も他の女子より10センチは低いだろう。どうやら、それを気にしていたらしい。


「まあ、あの頃、聖夜ってば、母さんの所に来てる生徒さんの顔も名前も興味なく、ずっとピアノ弾いてたもんね。」

 姉が呆れたように言う。

と、はっとして一之瀬さんが小さい体を慌てさせる。

「っていうか、時間時間!!ミイラ取りがミイラになっちゃう。」

「後ろがあるんじゃ仕方ないね。いってらっしゃい。」

 姉に背中をどつかれながら、音楽室へと向かう。


 案内所の前なんて、みんなが見ている場所で...。

 今までの平穏な日々に思いを馳せるが、まあ仕方ないかとふっと笑ってしまった。

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