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ドクズ転生〜本音と正反対に翻訳される呪いを添えて〜  作者: ヤッくん


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1話 「ブス」と呟けば、「可愛い」と響く。

アスファルトが焼ける、鼻をつくような熱気。

遠くで鳴り響くサイレンの音が、鼓膜の奥を執拗に叩く。


「……あー、クソ。死ぬのか、俺」


視界の端が、じわじわと白く爆ぜていく。

腹の底からせり上がる鉄の味が、喉を焼いた。


前世の俺は、いわゆる「クズ」だった。

他人を騙し、利用し、最後には仲間に背中を刺された。


自業自得。

因果応報。


そんな言葉が、泥水のような意識の中で虚しく浮かんでは消える。


(……次は、もっと上手くやってやる)


それが、俺の最期の思考だった。

善人になろうなんて、一ミリも思わなかった。


次は、誰もが跪くような「金」を掴む。

次は、最高級の「女」を侍らせ、飽きるまで抱く。

次は、逆らう奴を指先一つで消せる「力」と「権力」を。

誰よりも狡猾に、誰よりも自分勝手に。


世界を俺の「私物」として転がすような、圧倒的な勝者になってやる――。


闇が、すべてを飲み込んだ。


◇◆◇◆


虚無の深淵に、電子音に似た「神託」の通知音が響き渡る。

視覚化すら不可能な高次元の領域。

そこには、下界の魂を「駒」として弄ぶ八百万の神々が集う掲示板が存在した。


【ログ:魂番号 29182『ユウ』の転生処理を開始します】


1:ゼウス

この男か。前世でも散々悪事を働いた挙句、仲間に刺されて死ぬとはな。


2:名無し神

救いようのないゴミだね。そのまま消滅させてもいいんじゃない?


3:幸運の女神(自称)

えー、それじゃあ私の転生者ダービーの配当がなくなっちゃうじゃない!


4:軍神

たしかにな。


5:悪戯好きの神

てか、ユウの最期の記憶みてみてよ。「次はもっと上手くやる。金と女と権力を手に入れてやる」だって……俗物だねぇ。これって逆に面白くない?


6:名無し神

まぁねぇ。でもそのまま転生させるのはまずいでしょ。


7:悪戯好きの神

なら少し教育しちゃう? 悪意が善意に変換される「カオスコンバーター(呪いの翻訳機)」を付与するとかどうよw


8:幸運の女神(自称)

本音が全部、意図しない言葉に変換される呪いね。悪事を企めば企むほど、善意として受け取られる地獄ってわけね。


9:名無し神

あはは! それ最高! その性格の悪さ……あんたロキでしょ? バレバレだからw


10:悪戯好きの神

は? ちがうし! だれだし、そいつ! そんな名前じゃないし。……ほんとだし。


11:名無し神

あ、効いてる効いてるww


12:ゼウス

では、ユウの魂にはカオスコンバーターを付与して転生させることにするかのぉ。


13:とある慈愛の神

胃に穴が空きそうなストレスに耐えられるのかな……少しかわいそうな気が……。


14:名無し神

自業自得でしょw


15:軍神

たしかにな。


16:幸運の女神(自称)

じゃあ、この転生者、騎士学園の剣術学部のモブキャラと入れ替わる形で放り込んどくねぇ。


17:悪戯好きの神

その学園、もうすぐ新人戦トーナメントがあるよね? 転生者トトカルチョいっとく?w


18:名無し神

賛成!


19:悪戯好きの神

おけ!さあ、みんなオッズを決めてベットして!


20:名無し神

いいねぇ。わたしは『一回戦敗退』に1000ゴッドコインを賭けるよ! こんな軟弱者は初戦も勝ち抜けないでしょっ!


21:軍神

たしかにな。


22:悪戯好きの神

じゃあ僕は優勝にかけるよっ! 悪運だけは強そうだしねっ。1000ゴッドコインをベットだ!


23:豊穣の女神

なんか、楽しそうなことしてんねぇ!


24:幸運の女神(自称)

私は手堅く準決勝進出(ベスト4)に1000ゴッドコインよ。バカだけど運だけ良さそうだから、そこまではスルスル行っちゃうと思うわ!


25:ゼウス

……わしは二回戦敗退にしようかのぉ。


26:全員

「「「いや、あんたもやるんかいっ!!」」」


27:幸運の女神(自称)

はいっ締め切るよー! それじゃあ、このクズがどこまで勝ち切るかを特等席で見物させてもらいましょー!


カチリ、と運命の歯車が噛み合う。

神々の嘲笑と莫大な賭け金を乗せて、一つの魂が異世界へと射出された。

学園という名の檻で、彼を待ち受けるのは救済か、それとも――。


◇◆◇◆


視界が、白濁した光の奥からゆっくりと形を成していく。

最初に感じたのは、腹部を焼かれたような猛烈な熱さ、そしてズキズキと脳漿をかき乱すような鈍痛だった。


「……っ、が……」


呻き声が漏れる。俺は、硬いアスファルトの上で死んだはずだ。仲間に背中を刺され、虚しく空を仰いでいたあの感覚が、まだ指先に残っている。


「あ、気がついた!? 先生、ユウくんが目を覚ましました!」


聞き慣れない、高い声。

ぼやけた視界が焦点を結ぶと、そこには白衣に似た制服を着た少女がいた。看護学生だろうか、顔を真っ赤にしながら俺の顔を覗き込んでいる。


「さっきまで、すごい熱だったのよ。もう大丈夫?」


彼女が心配そうに、俺の額に柔らかな手を当てた。


(……あぁ? なんだ、ここは。……つーか、おい。ベタベタすんじゃねえよ。離れろ、ブス)


俺は、前世の流儀通りに毒を吐こうとした。

だが、喉の奥を奇妙な熱が通り抜けた瞬間――俺の唇から漏れたのは、自分でも耳を疑うほど、甘く、慈愛に満ちた声だった。


「――もっと近くに。もっと近くにきてくれ……お前、可愛いな」


「えっ……!?」


看護学生の顔が、一瞬で沸騰したように赤くなる。


(…………は? 今、なんて言った、俺?)


自分の声に一番驚いたのは俺だった。パニックになり、喉を抑える。


(違う! 俺は『離れろブス』って言ったんだ! なんだ今の、誰が喋った!?)


「あ、あの! 嬉しいけど、私……。あっ、アシュリー様!あ、 私、先生を呼んできますっ!」


彼女は逃げるように医務室を飛び出していった。入れ替わりで、開いた扉から一人の少女が悠然と歩み寄ってくる。


(……おいおい、とんでもねぇ美少女が来たな)


扉から現れたのは、眩いほどの金髪をラフに切り揃えたショートヘアの美少女だった。


ぱっちりとした二重の瞳には意志の強そうな輝きが宿り、どこか幼さを残した顔立ちとは裏腹に、そのスタイルは驚くほど整っている。


騎士としての訓練を物語るしなやかな筋肉が制服の下で美しいラインを描き、豊満な胸の膨らみが力強く布地を押し上げている。


王国の第三王女、アシュリー・ヴォル・アイギス。


その名前が、俺の脳内に濁流となって流れ込んできた。


(……記憶……? そうか、前任者の『ユウ』は、この王女が襲われたところに身代わりになって腹に剣を受けたのか。で、死んだ前任者の器に、クズの俺が入り込んだ……ってわけか)


状況を察するのに時間はかからなかった。

妙に察しのいい自分を褒めてやりたい。同時に、口角が自然と吊り上がる。


(シッシッシ……! 最高じゃねえか。じゃあ今世は、この立場を徹底的に利用させてもらおう。相手は王女様だ。俺に命を救われたってんなら、一生遊んで暮らせるだけの慰謝料……いや、謝礼をもらわなきゃなぁぁ!)


俺は、腹の傷を抱えながら、精一杯の強欲な笑みをアシュリーに向けた。


「……目が覚めたのね。ユウくん? 私の代わりに剣を受けてくれて……ありがとう。本当に助かったわ。……刺されたお腹、もう痛くない?」


アシュリーが、ベッドの側に立って俺を見下ろす。その瞳には、感謝と、わずかな当惑が混じっていた。


(痛ぇよ! クソ痛ぇよ! だから早く誠意を金で見せろ。ほら、宝石でも小切手でも何でもいいからよおぉ!)


俺は、喉に全神経を集中させた。慰謝料という言葉を吐き出すために。


「――もう、これっぽっちも痛くないさ。……お前が無事でいてくれた。ただそれだけで、俺の心は……満たされているんだ」


「…………」


アシュリーの動きが止まった。

俺の頭も止まった。


(だぁぁぁ!? なんだこれ! 思ったことと言ってることが違うじゃねえか!)


「……そう。とりあえず、元気そうで何よりだわ」


アシュリーは、頬を染めるわけでもなく、ただ不思議そうに俺を見つめている。


(おい待て! 帰るな! まだ一銭ももらってねえぞ! 手ぶらで帰すかよこの筋肉女!)


「――お前が隣にいてくれる。それだけで、俺の傷は光に包まれて消えていくようだ……。また、様子を見に来てくれるか? 俺の太陽……」


「……ええ。……また、来るわ。ゆっくり休み直して」


アシュリーは、俺の言葉を遮り、どこか居心地が悪そうに背を向け、部屋を出ていった。


一人取り残された俺は、絶望に打ち震えた。

俺の人生は開始五分で「強制の異翻訳モード」という最悪のバグに直面していた。


◇◆◇◆


一方、医務室を出た廊下。

アシュリー・ヴォル・アイギスは、自分の腕に立った鳥肌を、不可解そうにさすっていた。


「……何かしら、今の。あんな奴だったっけ、ユウって」


彼女の脳裏には、先ほどのユウの言葉ではなく、その目が焼き付いていた。


「言葉は立派だったけど……あいつ、アタシが話してる間、ずっとアタシの手元の指輪を値踏みするみたいに見てたわよね……?」


彼女の野生の直感が、警鐘を鳴らしている。

あの高潔な響きを持つ声の裏に、腐ったヘドロのような本音が透けて見えた気がした。


「……面白いじゃない。あいつのあの『目』、もう少し探ってみようかしら」


武闘派王女の唇に、好戦的な笑みが浮かんだ。


更なる絶望への招待状。それが彼の元へ届くのは、そう遠くない未来のこと。

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