表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/37

特別編「互いの実家で囲んだ、ふたつの食卓――私たちは“家族”になった日」



春のある週末。

日差しがやわらかく降り注ぐなか、ふたりの若き夫婦――氷室結衣と瀬川陽翔は、それぞれの“実家”を訪ねていた。


この日は特別な日だった。

結婚の挨拶を兼ねて、互いの母親と一緒に、順番に食卓を囲む日。


朝は瀬川家で、夕方には氷室家で――ふたつの家族が、一つになっていく時間だった。


 


 


■Scene 1:瀬川家の食卓――懐かしい香りと、変わらない愛情


「さ、できたわよ! みんな手を洗ってきて!」


陽翔の母・美佳が、いつもの調子でテーブルに料理を並べていく。


炊きたてのご飯、味噌汁、煮物、唐揚げ、そして結衣の好物だという筑前煮まで、すべて手作りだった。


「わぁ……おふくろの味って、こういうのなんだな……」


結衣は思わずつぶやく。

「実家でこうやって“温かいごはん”を囲むなんて、何年ぶりだろう……」と。


「陽翔が子どもの頃は、好き嫌いが激しくてね。でも唐揚げときんぴらだけは毎回完食だったのよ」


「母さんっ、それ言わなくていいって……」


ふたりのやりとりに笑いがこぼれる中、美佳がふと話し出す。


「結衣ちゃん、今日ね、陽乃さんから連絡があったのよ。“娘の顔がほんのり明るくなってきた気がする”って。……あなたといるおかげね」


結衣は一瞬言葉を失い、箸を置いて美佳を見つめた。


「……私も、陽翔くんに出会ってから、心が軽くなった気がしてます。人に甘えること、許される気がして」


美佳はやさしく笑って頷いた。


「じゃあ、今夜はこの家に泊まってく? ふたりで川の字で寝るとか」


「……やめてよ、もう! 母さん!」


けれど――その言葉の裏に込められた“あたたかさ”に、結衣は胸がいっぱいになっていた。


 


 


■Scene 2:氷室家の食卓――上品な空間に流れる“少女時代の記憶”


夕方、ふたりはタクシーで氷室家へと向かった。


玄関を開けた瞬間、柔らかい白木の香りとともに、氷室陽乃がふたりを迎える。


「よく来てくれたわね。陽翔くん、いらっしゃい」


「お邪魔します。あの……今日はありがとうございます」


リビングには、和洋折衷の料理が美しく並べられていた。


鮭の西京焼き、和風ローストビーフ、出汁巻き卵、そしてフルーツの盛り合わせまで、陽乃のこだわりが細部に光っている。


「すごい……料亭みたい」


陽翔が小さく呟くと、陽乃はお茶を注ぎながらにこっと微笑んだ。


「娘の“結婚相手”をもてなすんですもの。それくらい当然よ」


「……恐縮です」


けれど、どこかその言葉に、母としての温もりがあった。


食事中、陽乃はふと静かに語り出した。


「……実はね、あなたのお父さん――美佳ちゃんのご主人――彼を美佳ちゃんに紹介したの、私なのよ」


「えっ……!」


「昔から、“あなたの娘と、うちの息子が結婚してくれたらいいのにね”なんて笑ってたけど……まさか、本当にそうなるなんてね」


陽翔は言葉も出せず、テーブルの端で涙を浮かべていた。


すると、その向かい側――結衣もまた、鼻をすすっていた。


「ほんとに……不思議な縁、ですね……」


陽乃はそっと自分の娘を見つめた。


「それで、結衣。……あなたはなぜ、陽翔くんを好きになったの?」


結衣は、箸を置き、ゆっくりと話し始めた。


「雨の日の、コンビニで……彼が私の荷物を持ってくれたの。

“重そうですね、大丈夫ですか”って、それだけ。……でも、あの時、誰にも頼れなかった私にとっては、救いの言葉だったの」


「誰かが私を見てくれてる。それが、こんなにも嬉しいことなんだって……その時、初めて知ったの」


陽乃は深く頷いたあと、娘の手にそっと触れた。


「よかったわね。……本当に、よかった」


ふたりの母親が、ふたりの背中をそっと押した。

その日、ふたりは本当の意味で、“家族”として歩み始めたのだった。


 


――ふたつの実家、ふたつの食卓。

そこに流れたのは、たったひとつの想い。


「あなたのおかげで、家族になれた」




最後まで読んでくださり、ありがとうございます!

もしこの物語に少しでも「面白い!」と感じていただけたなら——


ブックマーク & 評価★5 をぜひお願いします!


その一つひとつが、次の章を書き進める力になります。

読者の皆さまの応援が、物語の未来を動かします。


「続きが気になる!」と思った方は、ぜひ、見逃さないようブックマークを!

皆さまの応援がある限り、次の物語はまだまだ紡がれていきます。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ