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特別編「あなたのおかげで、家族になれた」



春の陽差しが差し込む、郊外の静かなファミリーレストラン。

昼どきの混み合う時間帯に、ひときわ和やかな空気を漂わせる四人が、窓際の席に集まっていた。


氷室陽乃ひむろ・ひの――氷室結衣の母であり、穏やかで上品な雰囲気を持つ女性。

瀬川美佳せがわ・みか――陽翔の母であり、しっかり者で愛情深く、長年陽乃とは親しい仲。

そしてその隣に座るのが、それぞれの子ども――結衣と陽翔。


今まさに、「親」と「子」が、“家族”として交差する初めての時間が始まろうとしていた。


 


「まさか、本当にこうなるとはねぇ……」

先に口を開いたのは美佳だった。


「ほんとよ。あの子たちが、まさか“交際0日婚”で結婚するなんて……さすがに驚いたわ」

陽乃も笑いながら頷いた。


結衣と陽翔は、少しだけ恥ずかしそうに顔を見合わせた。


「ごめんなさい、急で。でも……お母さんたちがそう言ってくれるなら、少し安心です」


「ううん、私ね、ちょっと嬉しいのよ。だって、娘があなたの息子と結婚するなんて――昔からの縁を感じずにはいられないもの」


そう言った陽乃は、陽翔のほうをまっすぐ見て、ふと優しく語りかけた。


「陽翔くん、あなたね。お母さんからは“本当にまっすぐで、人に優しい子”だって聞いてたけど……本当にその通りだったのね」


「……ありがとうございます」


陽翔は深く頭を下げた。だが、陽乃の言葉は続いた。


「実はね、私……美佳ちゃんの旦那さん――つまり、あなたのお父さんを、昔紹介したのよ」


「……えっ?」


テーブルが静まり返る。


「うちの実家と、美佳ちゃんの実家は遠縁でね。お見合いなんかじゃなくて、ほんとに“偶然の縁”みたいなもので。ある集まりで会った時に、“あの人、あなたに合いそう”って」


陽翔はその言葉に、目を見開いた。


「……僕、知らなかった……。父と母の出会い、詳しく聞いたことなくて……」


美佳はゆっくり頷いた。


「言う機会がなかったのよ。あの人が亡くなってから……思い出すのも、ちょっと辛くてね」


陽翔は静かに目頭を押さえた。その瞳には、涙が浮かんでいた。


一方、その隣でも――結衣が静かに鼻をすすり、ティッシュで目元を押さえていた。


「結衣……?」


陽乃が娘を気遣うように声をかけると、結衣は微笑みながら小さく首を振った。


「大丈夫。ただ……不思議ね。こうしてテーブルを囲んでるだけなのに、なんだか“心のどこか”が満たされていくの。家族って、こういうものなのかな……って」


陽翔はそっと結衣の手に触れた。その小さな温もりに、結衣は応えるように指を重ねる。


 


「でも……一つだけ、聞かせてもらえる?」

陽乃が静かに問いかけた。


「結衣。あなた、どうして――陽翔くんを好きになったの?」


その問いに、結衣は一呼吸おき、まっすぐ母親を見つめて答えた。


「雨の日の、コンビニだったの。……私、父を亡くして間もない頃で、心も体もすり減ってて……」


「レジ袋を落としかけた私に、彼が何も言わず、当たり前みたいに手を貸してくれたの。

“重そうですね、大丈夫ですか?”って。……それだけのことなのに、涙が出るほど嬉しかった」


「――誰かが私を“見てくれている”と、そう感じたのは、あの時が初めてだったから」


結衣の言葉に、陽乃は深く頷いた。


「……そうか。それなら私も、納得よ。結婚、して良かったわね」


美佳もにこっと笑って、子どもたちに言った。


「それじゃあ――次はうちで、ちゃんとした“家族の食卓”を囲みましょ。

こうして偶然から始まった家族だからこそ、大切にしたいわ」


結衣と陽翔は、同時に微笑んだ。


偶然がつないだ縁。

知らなかった出会いの記憶。

心から交わされた「ありがとう」の重なり。


それはまるで、“結婚”という言葉の本当の意味を、静かに教えてくれる時間だった。


 


――今日、このテーブルで。

彼らは“本当の家族”になった。




最後まで読んでくださり、ありがとうございます!

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皆さまの応援がある限り、次の物語はまだまだ紡がれていきます。


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