第8話「評価と嫉妬――陽翔の背中を見つめる周囲の視線」
社内プレゼン発表会が終わった翌週――
各部署に“評価レポート”と“社長直筆の総評”が配布された。
その冒頭、結衣が自ら記した言葉はこうだった。
『若手の皆さんが見せてくれた情熱に、私は心から感動しました。
その中でも、部署を超えた連携に対する視点を持つ提案は、今後の社内制度にも活かせるものでした。』
この“部署を超えた連携”というワードが、社員の間で自然と話題になり――
すぐに「これって瀬川くんの提案のことじゃない?」という声が飛び交った。
■
「……ほんとに、すげぇな、あいつ」
開発部の同期・村瀬 翼は、昼休みにため息をつきながら呟いた。
「私も同じ新人だけどさ……あんなプレゼン、普通できないよ」
営業部の赤井 美波もまた、紙パックのカフェオレを手に言った。
翼と美波は、プレゼン時の陽翔の堂々たる姿を思い出していた。
誰より緊張していたのに、誰より明確な“想い”を言葉にしていた。
(なのに、俺たちは……)
そんなふうに、ほんのわずかに置いていかれたような焦燥が胸にあった。
■
だが、評価は全員に与えられた。
翼は「構成が丁寧で技術的視点に優れている」と、
美波は「営業改革の提案として鋭い視点」と、それぞれ上司に褒められていた。
けれど、やはり“陽翔の名前”は、いま社内で一歩前を歩いていた。
■
そんな中――
陽翔自身は、まるで何も変わらないように、自席で黙々と書類を整理していた。
「……なんか、浮かれてないな」
「ああ。むしろ、もっと評価されていいのに」
そう口にしたのは、総務部の40歳課長・高見澤志乃だった。
そして、部長・三宅忠彦がぽつりと続けた。
「……ああいう真面目な子ほど、余計な目にさらされるんだよ。“社長に気に入られてる”とか、な」
■
――その言葉の通り。
実際、少しずつだが“陽翔に対する嫉妬の眼差し”も芽生え始めていた。
「……社長が評価してるの、ちょっと特別じゃない?」
「1年目にして、社長に名前覚えられてるなんて」
「なんか、コネとかあるんじゃない?」
それは確証のない“憶測”でしかなかったが、
人の嫉妬は、根拠などなくても心に影を落とす。
■
その日の午後、陽翔は資料を届けに社長室の前に立った。
秘書の橘理沙が出迎え、無言で中へと通す。
中には、結衣がいた。
「お疲れ様。……変な声、聞いてない?」
「……少し、だけ。でも大丈夫です。気にしてません」
「そう」
そう言って、結衣は小さく笑ったあと――
机の下で、そっと陽翔の手を握った。
「私は、ちゃんと見てる。あなたが“評価されるに足る人”だってこと」
「……ありがとう、結衣さん」
「ううん。“社長”でしょ?」
そう茶化しながらも、彼女の手は、少しだけ強く握り返していた。
■
部屋を出たあと、理沙がふっと陽翔の方を見た。
「……あなたが耐えてること、結衣には全部わかってるから」
「……はい」
「でもね、1年目って、嫉妬されるぐらいがちょうどいいのよ。期待されてる証拠だから」
――陽翔はその言葉を、黙って心の中に刻んだ。
プレゼンの成功は、確かに陽翔をひとつ成長させた。
けれど、それは同時に“見られる存在”になったということ。
試される1年目の終盤――
そしてこのあと、彼は“もっと大きな舞台”へと押し出されていく。
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