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第8話「評価と嫉妬――陽翔の背中を見つめる周囲の視線」



社内プレゼン発表会が終わった翌週――

各部署に“評価レポート”と“社長直筆の総評”が配布された。


その冒頭、結衣が自ら記した言葉はこうだった。


『若手の皆さんが見せてくれた情熱に、私は心から感動しました。

その中でも、部署を超えた連携に対する視点を持つ提案は、今後の社内制度にも活かせるものでした。』


この“部署を超えた連携”というワードが、社員の間で自然と話題になり――

すぐに「これって瀬川くんの提案のことじゃない?」という声が飛び交った。


 



「……ほんとに、すげぇな、あいつ」

開発部の同期・村瀬 翼は、昼休みにため息をつきながら呟いた。


「私も同じ新人だけどさ……あんなプレゼン、普通できないよ」

営業部の赤井 美波もまた、紙パックのカフェオレを手に言った。


翼と美波は、プレゼン時の陽翔の堂々たる姿を思い出していた。


誰より緊張していたのに、誰より明確な“想い”を言葉にしていた。


(なのに、俺たちは……)


そんなふうに、ほんのわずかに置いていかれたような焦燥が胸にあった。


 



だが、評価は全員に与えられた。


翼は「構成が丁寧で技術的視点に優れている」と、

美波は「営業改革の提案として鋭い視点」と、それぞれ上司に褒められていた。


けれど、やはり“陽翔の名前”は、いま社内で一歩前を歩いていた。


 



そんな中――

陽翔自身は、まるで何も変わらないように、自席で黙々と書類を整理していた。


「……なんか、浮かれてないな」


「ああ。むしろ、もっと評価されていいのに」


そう口にしたのは、総務部の40歳課長・高見澤志乃だった。


そして、部長・三宅忠彦がぽつりと続けた。


「……ああいう真面目な子ほど、余計な目にさらされるんだよ。“社長に気に入られてる”とか、な」


 



――その言葉の通り。


実際、少しずつだが“陽翔に対する嫉妬の眼差し”も芽生え始めていた。


「……社長が評価してるの、ちょっと特別じゃない?」


「1年目にして、社長に名前覚えられてるなんて」


「なんか、コネとかあるんじゃない?」


それは確証のない“憶測”でしかなかったが、

人の嫉妬は、根拠などなくても心に影を落とす。


 



その日の午後、陽翔は資料を届けに社長室の前に立った。


秘書の橘理沙が出迎え、無言で中へと通す。


中には、結衣がいた。


「お疲れ様。……変な声、聞いてない?」


「……少し、だけ。でも大丈夫です。気にしてません」


「そう」


そう言って、結衣は小さく笑ったあと――

机の下で、そっと陽翔の手を握った。


「私は、ちゃんと見てる。あなたが“評価されるに足る人”だってこと」


「……ありがとう、結衣さん」


「ううん。“社長”でしょ?」


そう茶化しながらも、彼女の手は、少しだけ強く握り返していた。


 



部屋を出たあと、理沙がふっと陽翔の方を見た。


「……あなたが耐えてること、結衣には全部わかってるから」


「……はい」


「でもね、1年目って、嫉妬されるぐらいがちょうどいいのよ。期待されてる証拠だから」


 


――陽翔はその言葉を、黙って心の中に刻んだ。


 


プレゼンの成功は、確かに陽翔をひとつ成長させた。

けれど、それは同時に“見られる存在”になったということ。


試される1年目の終盤――

そしてこのあと、彼は“もっと大きな舞台”へと押し出されていく。




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