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エリザベート視点:令嬢は至高の幸せを掴みたい!


 アランとかいう執事が死んでから、どうも屋敷の空気が重苦しい。新しい執事は気が利かないし、護衛の騎士たちも、なんだか私を腫れ物でも触るみたいに遠巻きに見ている気がするの。些細なことでイライラが募る毎日。


 王立学園に入学してからは、あの忌々しい従者たちが、私の「秘密の愉しみ」について、あれこれと口出しするようになったの。「王都では人目がございます」だとか、「発覚すればローゼンクランツ家のためになりません」だとか、本当に耳障りだわ!

 おかげで、私の大切な「儀式」、若い女を攫ってきてその血を浴びることも思うようにできなくて、ストレスが溜まる一方よ!

 血を抜かれて、だんだん青ざめていく女の顔を見るのは、最高の娯楽なのに。その温かい血を浴びると、私の肌はますます輝きを増し、体中に生命力が満ち溢れてくるのを感じるのに!

 アランがいなくなってから、素材の質も落ちた気がするわ。本当に使えない奴らばかり!


 こんなつまらない日常の鬱憤は、どこかで晴らさなくては。そして思いついたの。

 平民の分際で、特別な試験に受かったからって王立学園に居座るエマって娘。あの子なら、私の領民だし、逆らうこともできないでしょう。他の生徒と違って、人間扱いする必要もないものね。自分の家の領地出身者だから口止めは容易だろうと考えたの。従者たちはまた何か言っていたけれど、そんなもの、私が押し切れば済むことよ!


 最初は、ただ罵倒するだけだったの。でも、あの子、意外と気丈で、ただ黙って耐えているだけ。それがまた私の癇に障るのよ! だから、少し鞭で躾けてあげた。それでも、あの子の瞳の奥の光は消えない。本当に気に食わないわ。


 もっと絶望させてあげなくては。


 そうだわ、あの子の故郷の村。どうせちっぽけでみすぼらしい村に決まってる。一つくらいなくなっても誰も困らないでしょう。

 私は配下に命じて、エマの目の前で村に火を放たせた。燃え盛る炎、崩れ落ちる家々。エマは地面に突っ伏して、激しく慟哭していたわ。

 ああ、なんて美しい光景!

 あの絶望に歪んだ顔、最高だわ!

 私の心は、久しぶりに満たされた。


「安心して。貴方の可愛い妹だけは、生かしておいてあげたわ。もちろん、私の手元でね」


 そう耳元で囁いてあげると、エマはさらに絶望した顔をした。それからは、もう私のやりたい放題。あの子をいたぶることが、私の数少ない楽しみになったの。


 物足りなくなって、ちょっと羽目を外しすぎちゃったこともあるけど、辛うじて貴族の端っこにいるような犬達なんて、別に居なくなったって誰も困らないわよね。

 どうして今まで、我慢してたのかしら、バカみたい。


 そして、王立学園の卒業舞踏会。あのアレクサンドルったら、信じられない!

 婚約者である私を差し置いて、あの薄汚い平民女の肩を抱き、私の「罪」とやらを声高に叫ぶなんて!

 村焼き?

 鞭打ち?

 それが何だというの?

 私が自分の領地で、自分の所有物をどう扱おうと、私の勝手でしょう!

 それに、秘密の恋人がいたって、私ほどの女なら当然のこと。それを殺した?

 あら、もう必要なくなったから処分しただけよ。全て、私にとっては当然のことなのに、それを悪だなんて、なんて理不尽なのかしら!

 もう、怒りと絶望でどうにかなりそうだったわ!


 そんな時、彼が現れたの。アッシェンバッハ皇国のヴィルヘルム第三皇子殿下!


「ならば、彼女は私が貰い受けよう」


 なんて力強く、魅力的な言葉!

 そして、私だけを見つめる熱い眼差し!


「ひと目見たときから、貴女に恋をしていた。その気持ちはもう我慢できそうにない」


 ――ああ、運命だわ!

 この方こそ、私を真に理解し、私に相応しい殿方! アレクサンドルなんかとは比べ物にならない!

 私は迷わず、ヴィルヘルム様の手を取った。彼と一緒なら、きっと最高の幸せが待っているはず!


 アッシェンバッハ皇国での生活は、まさに夢のようだったわ!

 ヴィルヘルム様は、私の言うことなら何でも聞いてくれる、最高のナイトだった。

 邪魔な皇帝陛下や他の皇子たち?

 ふふ、ヴィルヘルム様と二人で、綺麗さっぱり片付けちゃった!

 だって、私たち二人こそが、この国を統べるに相応しい存在なんだもの。当然の権利よ!

 国民たちは、私たちを恐れてるみたいだけど、それも仕方ないわね。だって、私たちは、選ばれし存在なんだから。

 税金?

 もちろん、好きなだけ取り立てたわ。だって、それが強者の特権でしょ?


 私たちは、毎日が祝祭のように輝かしい日々を過ごした。これこそが、私が求めていた本当の幸せ!


 ただ最近、息子のフリードリヒが反抗期なのが困りものなの。

 税を下げるべきだとか、罪人たちに恩赦を与えるべきだとか、ありえないと思わない?

 大人の事情をよく分かっていないのよね、あの子は。

 少し、仕事をさせて親のありがたみを知るべきね。

 ヴィルヘルム様にそう溢したら、夫婦水入らずの旅行を提案してくれたの。息子はお留守番。

 方々の領地で、領主家の歓待を受けながら、あちらこちらを巡ったわ。

 でも、歓迎の宴は物足りないところばかりだった。

 やっぱり、皇都の家が一番ってことかしらね。

 やがて、旅の最後に、私とヴィルヘルム様は皇家の別宅にたどり着いた。

 星が綺麗な夜だったの。

 二人きりの、ロマンチックな夜。


「エリザベート、今夜は特別な夜だ」


 ヴィルヘルム様は、そう言って、私に美しいグラスを差し出した。グラスには、深紅のワインが注がれている。月の光を受けて、宝石のようにキラキラと輝いていた。


「まあ、素敵……」


「君の美しさに捧げる、特別なワインだ。さあ、乾杯しよう」


 ヴィルヘルム様の瞳は、いつにも増して優しくて、熱を帯びていた。

 私は、その瞳に見つめられながら、グラスを受け取り、一口飲んだ。甘くて、芳醇な香りが口の中に広がる。今まで飲んだ、どんなワインよりも美味しかった。


「……とても美味しいわ、ヴィルヘルム様」


「そうだろう? 君のために、特別に取り寄せたものだ」


 ヴィルヘルム様は、そう言って微笑んだ。そして、自分のグラスにもワインを注ぎ、私に微笑みかけた。


「エリザベート、私は君を愛している。この世の全ては君を彩るためにある。君こそが、私の全てだ」


 ヴィルヘルム様の甘い言葉が、私の心を溶かしていく。ああ、なんて幸せなのかしら……!

 私は、この人の愛を一身に受けている。これ以上の幸せが、この世にあるかしら? 

 明日も、明後日も、ずっとこんな幸せな日々が続くのね!


「私もよ、ヴィルヘルム様……。貴方だけが、私の全て……」


 私は、ヴィルヘルム様に身を委ねた。彼の腕の中で、永遠の愛を誓う。


……なんだか、とても眠くなってきたわ。まるで、美しい夢を見ているみたい……。


 ヴィルヘルム様が、私を抱き上げて、寝台まで運んでくれる。優しい手つき。まるで、壊れ物を扱うみたい。


「おやすみ、エリザベート。永遠に、私の腕の中で眠るといい」


 ヴィルヘルム様の甘い囁きが、子守唄のように聞こえる。ああ、なんて心地良いのかしら……。


 ……でも、何をしているのかしら? ヴィルヘルム様が、寝台の周りに何かを撒いている。甘い、でも、どこか鼻を突くような香りがするわ。


「ヴィルヘルム様……? それは、何……?」


 私は、かすかに目を開けて、尋ねた。


「心配はいらない。これは特別な香油だよ、エリザベート。私たちの眠りが誰にも妨げられないようにね」


 ヴィルヘルム様は、そう言って微笑んだ。その笑顔は、いつもと変わらず優しくて、私を安心させた。


 ……そう。誰にも、邪魔されない。私たちだけの、永遠の眠り……。


 私は、再び目を閉じた。

 

 ……なんだか、周りが明るくなってきたわ。眩しい光が、まぶたを通して、私の目に飛び込んでくる。


 ゆらゆらと、揺らめいている。まるで、踊っているみたい。綺麗な光……。


 ああ、なんて美しい夢……。ヴィルヘルム様と、永遠に、一緒……。


 ――――。



 これにて完結

 エリザベートは、最期まで明日も幸せな日々が続くと疑っていませんでしたとさ。

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