あなたが好き
2人が最初に訪れたのは、大臣の親族の経営する貿易会社だった。
陰からコソコソ調べるよりも堂々と正面からお訪ねしようという…はっきり言って敵を煽っちゃえ。くらいのノリでの会社訪問。
…自分達の存在を認識させるための行動。
応対に現れたのは、いかにも裏街道まっしぐら…そうな眼光鋭い中年男と、見た目が骨の髄まで舐めそうな悪女っぽい…(個人の感想)の事務員(多分)2人だった。
女は品定めするように、ルーク達を眺めながら言った。
「オーナーなら出かけております。アポイントはお取りでしたかしら?」
ルークが取っていないと告げ、アレンが超真剣そうに答えた。
「アポイントなしでは無理なんですか?こちらも時間の読めない仕事なもので…」
女は薄笑いを浮かべながら、
「オーナーはとてもお忙しい方なので、アポイントなしでは無理ですが、明日以降の午後からでしたら…会社にいる可能性もありますわ。アポイントお取りしますか?」
2人は「また来ます」と告げると静かに会社のドアを開けて外へ出た。
人影の少ない街の中、ルーク達の目の前を何人もの人たちを乗せた荷車が通って行く。
若い世代は乗っていない。乗っているのは、中年以降の男女と子供…。皆痩せ、何もかもを諦めた表情でうなだれ、荷台に詰め込まれていた。
「どこへ行くんだろう」
アレンのつぶやきにルークが答える。
「追うぞ」
走り出す2人。
…を、追いかけ走る護衛。
しばらく追いかけた。
…が、
馬に引かれた荷車に追いつけはずもなく、知らない街の中で完全に見失ってしまった。
「ルーク、どうする?」
「仕方ない。次にうつる…」
「次…か、」
アレンは地図を見始めると、何かを見つけたように言った。
「通り過ぎた。2つ後ろの通りだ。戻ろう…」
ルークは頷いた。
オズワルド大臣邸。
庭に植えられている木には大型の鳥も羽を休めている。大臣の元に、今、領地からの使者が手紙を運んで来たところだった。
読んでは眉を潜める大臣。
真昼のエドモンド邸。
プリシラと兄ジュリアンを探していたウエラは、2人の母親のシェリルに、
「奥様、お2人はどちらにおいでですか?お茶の時間なんですけどね」
「2人なら書斎よ。お芝居の原作を読んでいるわよ。予習してお芝居観に行くんですって」
ウエラの顔が一瞬止まった。
「…そう…ですか。では、あちらにお茶をお運び致します…」
「いつもありがとうねぇ。ウエラ」
エドモンド邸は平和だった。