あなたが好き
王都の夕陽輝くエドモンド邸。
「では参りましょう。姫君、お手をどうぞ」
「えぇ、騎士様。参りましょう」
そう言うとプリシラは、ひざまずく兄ジュリアンに右手を差し出す。
居間で繰り広げられる劇的な何かの何か。
2人のやりとりを見ていたウエラが呆れながら2人の母親のシェリルに聞いた。
「奥様、お二人は…何を始めたんですか?」
「来週観に行くお芝居の予習みたいよ」
「お芝居になんて行ってよろしいのですか?ルーク王子に叱られませんか?」
ため息ついてしまうウエラ…。
シェリルは小首をかしげながら微笑んだ。
「そうねぇ?無事に帰って来られれば…いいんじやないの?ルーク王子は留守だし。それに…ジュリアンも一緒に行くんだし…ね」
プリシラの手を取った兄も加勢して言った。
「ウエラ安心していいよ。こういう時の俺様だからね。大事なお姫様は命がけで守るよ。それに、城の護衛も付いてくるだろうし」
(この兄は、王都の恋愛芝居から都会的な何かを学ぶつもりらしい)
潤んだ瞳が輝くプリシラも、ときめく乙女心を爆発させながら、ウエラを説得するように言う。
「ウエラ、チケットが抽選で当たったのよ。兄様が商店街のくじで当ててきたのよ。人気のお芝居で普通じゃ入れないの。な・の・に!兄様が当てたのよ。行くしかないじゃない」
それでも…心配そうなウエラ。
「ですが…ルーク様がお留守の、こんな時に…何かあっては…と、私は心配で…」
ウエラの声は徐々に小さくなっていく。
「大丈夫よ」
親子3人は笑って答えた。
翌日も予定が詰まっているルークは、朝早くから身仕度していた。
鏡に映る自分が少し疲れて見える。
ドアのノックの音と同時に部屋にアレンが入ってきて言った。
「おはよう、ルーク。ジャックが二日酔いでバテている。あいつは、今日はダメだな」
「だらしないな。あれぐらいの酒でバテるなんて、仕方ない置いて行こう。ジャックなしのルートで行く。みんなの様子はどうだ?」
「彼らは護衛のプロだ。すぐに出られる」
ルークは頷いた。
頷いてから、
「とにかく急ごう」
今度はアレンが頷いた。