あなたが好き
ルーク達は夕方近くまで街の惨状を見て歩き、ホテルに入った頃には夕方になっていた。
大臣の領地、本来なら宿泊先は大臣邸。…なのだけど、そこは…お忍びの身。身分を隠して、こっそりとホテル入りしていた。
ホテルの窓から容赦なく入ってくるのは、
ルークの頬を焦がしながら、街の遠くに沈んでいく紅く熟した太陽の斜光。
迫る夕闇と落ちゆく陽の熱に、遠く王都にいる恋しい人の顔が、思い出の中でいつまでも笑っていて、座り込んだベッドから立ち上がれないでいた。
ルークの部屋に入り、後ろから近づいて来たアレンが声をかける。
「ルーク。疲れたのか?それとも、落ち込んでいるのか?それとも…ホームシックなのか」
ルークはため息をついた。
「そうだな。この街の現状を知らなかった事に落ち込んでいたよ」
「仕方ない事です。大臣の圧力で、風の噂にも乗らなかったでしょうからね」
いつの間にか部屋にいたジャックの、憐れむような言葉と視線が耐えられなかった。
まるで、今まで何をしてきた?と…言われているような気がして…。
「ルーク。落ち込んでいても仕方ないから、食事に行こう」
アレンに続けてジャックも、
「ルーク様、お腹が空いていては何も考えられないですよ」
「あぁ、そうだな」
ルークは、前を歩く2人について歩き出した。
王都の大臣邸。
大臣は、プリシラの見舞いから帰ったソフィアに声をかけた。
「プリシラ姫の様子はどうだった?」
ソフィアは、つまらなそうな表情を浮かべて言った。
「高熱が移るといけないと言われまして、会えませんでしたわ。高熱なんて…本当なのか判りませんけど?」
「まぁ、異国の小娘などどうにでもする。余りこの事では動くな」
ソフィアの表情が変わった。
「この事では動くな…とは?」
部屋に夕闇が黒を広げる。
ソフィアには大臣の口元しか見えなくなっていた。
今、暗闇の中で大臣の歯だけが笑っていた。