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あなたが好き

 王都のエドモンド邸。


 午後の陽射しの下、プリシラは庭で兄と犬たちと水遊びをしていた。

 そこへ、ウエラが慌てながら手紙を持って走って来る。

「誰からの手紙なの?」

 兄様が不思議そうに聞く。

 ウエラは、少しためらってから、

「それが…大臣様の、ソフィア様からです」

 兄と妹は、条件反射のように顔を見合わせた。

 顔を見合わせた後に、兄様がダンスを踊るように、それは優雅にウエラから手紙を受け取った。

 受けとると、牧羊犬が脱走した羊を追うがごときの猛スピードで、私達から遠く離れたところまで走って行き、止まったと思ったらやたらと手紙を触りまくり、強烈に匂いを吸引してから、物凄く慎重に封を開けていた。

 物珍しさと怖いもの見たさから、固唾を飲みながらその場で固まる私とウエラ。

 

 (後で、何故あんなに大袈裟に開封したの?と兄様に聞いたら、笑いながらこう答えてきた。

「絶対に、毒か何かを仕込まれていると思っていたからね」と)

 

 兄様は、ゆっくりと手紙を読んでいる。好奇心に耐えられない。

 ウエラと一緒に走り寄って、覗き込んだ。

「兄様、何て書いてあるの?」

 兄様が答える。

「プリシラに会いたい。…都合のいい日時を知らせてほしい…と書いてある。どうする?」

「姫様、どうなさいます?」

 心配そうにウエラが聞く。

 兄様も私の答えを待っている…多分。


 ルーク達を載せた見た目普通の馬車は、街道をゆっくり走っていた。

 その馬車の後ろを、数人の護衛を乗せた見た目普通の馬車が付いて走って来ている。

 

 ジャックは流れていく景色に子供のように上機嫌にはしゃいでいる。

 ルークが呆れたように言った。

「何がそんなに楽しいんだ?景色なんて、どこも似たようなものだろう?」

「違いますよ。私は馬車で移動の時は夜か、…日中の移動の時は、そう…いつも顔は伏せてましたからね。景色なんて見た事なかったんです。だから、今が楽しくて楽しくて凄く嬉しいんですよ」

 アレンが呆れたように言った。

「ジャック…それは、いつも逃亡してたからじゃないのか?」

 ジャックの顔が曇る。

 曇る顔の、微かに歪む口が動く。

「昔話です。食うに困り、重ねた罪に追われていた昔の事です」

 ルークが問う。

「大臣とはいつ知り合いに?」

「ルーク様、これは尋問ですか?」

「まさか、純粋な疑問だ」

「何度も捕まる私に興味を持ったのでしょう。ある日、繋がれていた牢に現れました。そして、ある程度の自由を保障するから仕事をしろと。正直、牢から出れるなら全てがどうでも良かったんです…」

「なるほど、それで…プリシラも襲ったと?」

 ジャックは、ショボショボと背を丸めて小さくなってからポツリと言った。

「悪かったと思ってますよ。生きるためでしたから…」

「責めてないから」

 ルークは優しく笑っている。

 ジャックその顔を見て安心したように、

「あの頃は大臣に生かされていました。今はルーク様とプリシラ様のために生きています。信じて下さい」

 誇らしげに言うジャックに、アレンが小さく一言言った。

「ニルス王子のところへの就職のためだろ?」


 カタカタと眠気誘う馬車は走る。

「…馬車の旅の手慰みにお二人ともタロット占いはどうですか?未来を知りたくないですか?占いだけは自信があります」

 アレンが笑いながら答えた。

「占いだけかよ。ニルス王子への催眠術はどうなんだよ」

 ジャックは自信満々に、

「あれには驚きました。きっと、ニルス様が純粋培養のお子様だったから…成功したのでしょうね」

「俺達は術にはかからないのか」

 色っぽく笑うルークにアレンが答える。

「酒で汚れきっているからな…」

 「うん。うん」と納得したルーク。

  

 カタカタと車輪の音が優しく馬車内に響いている。



 

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