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夕焼けで紅く染まるガーランド城の執務室。
ルークはアレンが帰った後に、オズモンド大臣についての書類をもう一度読んでいた。
書類には大臣の領地内での告発が記されていた。
添付されている別の書類も本物。
悪い噂は昔から自分にも聞こえていた。
幼い頃には大臣を怖い人だと認識して、近くに大臣がいれば挙動不審な態度にもなっていた。
その時の自分の感覚は間違いではなかった。
深いため息が出る。
ため息つきつつ、装飾の施された天井をしばらくの間見つめ、ゆっくりと立ち上がった。
自分だけの裁量で動くわけにはいかない。
窓の外に広がる紅い空を背にすると、自分の執務室を後にした。
ルークが報告書類を持って行った先は、父親である現国王の部屋だった。
報告書を読んだ国王は、目を伏せたまま呟いた。
「本当なのか?」
頷くルークを見て、国王は続けた。
「恐ろしい事だ。民があっての領主であるのに…」
「どうなさいますか?」
「これだけでは足りない。言い逃れできない完璧な証拠を持ってこれるか?」
父王の問いかけにルーク王子が答えた。
「お任せ下さい」
翌朝、ガーランド城を訪れたオズモンド大臣は国王からルーク王子の留守を聞いた。
「ルークに用事でしたかな?」
笑顔で話す国王に大臣は丁寧に答える。
「いいえ。お帰りになった頃にまた伺いましょう。いつ頃お戻りなので?」
国王は困った風にため息交じりに答えた。
「あぁ、何も聞いてなかった!何日留守なのか…困った息子です。いや、まぁ、戻ったら大臣のところへ知らせを出す。ということで宜しいかな?」
芝居じみた国王と、呆気にとられる大臣。
一瞬…微妙な空気が流れて、変な圧を感じた大臣は一礼をし、黙って部屋を退出した。
街道を走る馬車の中で、アレンは大臣の領地についての報告を読んでいた。
重い重税と、厳しい取り立て。
飢えた人や、身ぐるみを剥がされた死体で溢れる市街。
農村部では、税金を払えない領民を大臣の経営する毒薬工場や開拓現場で働かせている。その中には、病気の老人や5才くらいの子供もいた。
アレンは目の前のルークに聞いた。
「酷いな…」
「だから、確かめに行く。大臣の領地と言っても、ガーランド国の問題だ…」
アレンは微笑んだ。
そして、聞いた。
「…で、一緒に行くことになったのか?」
と、自分の隣に座るジャックを見た。
「彼は、その領地出身だろう?」
ルークの言葉に微笑むジャック!
「アレンさん。以後、宜しくお願いします」
「よ、よ、宜しく…」
(ルーク、大丈夫なのかよ)
苦笑いのアレンと、満面の笑みのジャックは固い握手をした。