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ガーランド城のルークの執務室に、アレンが書類の束を持って入っていった。
「ルーク、待たせたな。やっと、証拠が揃ったよ」
執務机に座っているルークは、目の前に積まれた書類から顔を上げた。
「ありがとう。こんな短期間に集めるなんてさすがだよ、アレン」
「情報提供者が完璧だからな。それより、ルークおまえ…、何日も寝込んでいるみたいな疲れた顔しているぞ。毎日…徹夜なんだろう?少しは休めよ…」
ルークは笑いながら、
「心配してくれるのか?体なら、大丈夫だ」
アレンも笑って言った。
「大事なお姫様のためだもんな…」
「うるさいな…」
照れて赤くなるルークをからかうアレン。
「…で、プリシラ姫とは、ちゃんと話し合ったのか?」
真顔に戻るルーク。
「大体のところは…それで、プリシラも納得してくれた。賢いお姫様で助かったよ」
「ふ…ぅん」
優しく笑うアレン。
穏やかに過ぎていく執務室の夏の午後だった。
オズモンド大臣は、自宅で領地から届いた報告書類に眉をひそめている所だった。
どうして、そういう事になったのか?修復できる偶然なのか?を報告書類の文面から見いだそうと必死だった。
そこへ、ドアのノックと一緒にソフィアが部屋に入ってきた。
「お父様、お話しよろしいかしら?」
大臣も、答えないわけにもいかず、
「どうしたのだ?」
ソフィアは、金髪が縁取る美しい顔に少しだけ怒気をはらませながら、
「私とルーク王子の事です。おかしいと思いませんか?私たちの婚約が巷でこれだけ噂になっているのに、王家からは何も言ってきてません。花のひとつも贈られてきていませんわ」
「あちらも忙しいのではないか?色々な事は正式に決まってからなのではないのか?」
大臣の遠回しな言い方に、ソフィアは
「お父様、我が家のプライドの問題ですわよ。婚約内定の大臣家の娘に花のひとつも贈らないなどとあってはならない問題です。侮辱です。それにプリシラ姫はまだガーランド国にいるそうです。どうしてですの?」
娘の気迫に、さすがの大臣も折れた。
「分かった。分かった。明日、城に行って聞いてこよう」
ソフィアは、花のひとつも贈られてこない事は、はっきり言ってどうでも良かった。気にいらないのは、プリシラ姫が呑気にまだこの国に暮らしている事だった。
私なら、自分を振った男が他の女と婚約するなんて見ていたくない。
すぐに母国へ逃げ帰る。
…ルーク王子に対して何も思っていないのか?
それとも…?
いいえ。
だけど…何故だろう、凄くモヤモヤする。