あなたが好き
地下牢へ続く細く薄暗い階段を、灯りを持つ兵士、ルークと私の順で降りて行く。
「プリシラ、ジャックに会ってどうするつもり?」
「私にした事への償いを取りたくて…」
「…?」
階段下の地下牢は、壁に掛けられたランプの薄い光でぼんやりと浮き出ている。
ジャックは…、牢の隅にある一段黒い塊がジャックなのだろう。
プリシラは静かに語りかける。
「ジャック…」
黒い塊はゆっくりとこちらに近づいて来て、灯りの下で幽霊のように浮かび上がった。
「その声は…お姫様か、俺に会いたくなったみたいだな…」
「ええ、そうよ。あなたに会いたくて、伝えたい事があって来たのよ」
ニヤリと笑うジャック。
「この俺と一緒に逃げる気になったのか?」
後ろに控ているルークから、何たが凄い殺気が伝わって来た。
「うふふ。そんな事したらルーク王子とニルス王子の兵士達に地の果てまで追い回されるわよ。そして捕まり、その場で八つ裂きか、拷問で生殺しか…それでも…いいの?」
微笑む私。
「あんた見かけによらず怖い事言うんだな。で、こんな所に来た理由って何だよ?」
「ジャック、あなたはガーランド、アローゼの両国の王子の命を狙った罪と、私を襲った罪でここから一生出られないわ。襲われた私がわざわざ♪教えに来てあげたのよ♪」
「嫌みな女だな…。それより俺が…王子達の命を狙ったって…?」
ジャックの瞳が灯りに揺れている。
「ええ。そうなのでしょう?あなたは宴の席の余興で、勝手にニルス王子に術を掛けたそうじゃないの…」
私の微笑みも細切れに揺れている。
「誰が…そんな事を…」
「大臣よ。大臣はあなたを止められなかったと、後悔していたそうよ」
微かな空気で伝わる。
…ジャックの心の揺れが…。
「大臣が…?嘘を言うな」
「本当よ。国王陛下にね、悪いのは全部ジャックで、自分たちは巻き込まれただけ。こんな事になったのはルークのせいでもあるからソフィア姫と結婚させろと言いに来たわ。あぁ、可哀相なジャック。今回の事で大臣は国王と親戚に、あなたは二度とここから出れない。…もしくは、口封じに毒殺か死刑か…」
ジャックの両手が格子を摑んだ。
「ちょっと待て!おかしいだろう」
「何故…?どこがおかしいの?」
さっきまでの余裕はなくなったジャックが叫ぶ。
「だって、あれは…」
「あれは…なんなの?」
牢の格子越しに狼狽えるジャックと、魔女のごとく微笑むプリシラ。
ルークは思った。
王妃として将来有望だなと。