あなたが好き
プリシラは、ガーランド城のバルコニーでベンチに座り、遠い街の屋根並みに沈みゆく夕陽をボンヤリと眺めていた。
時々吹く夕焼け色に染まる風が木々を渡り、帰路を急ぐ小鳥達の姿が紅い太陽を横切っている。
「プリシラ、そろそろ中に入ろう」
ルークがバルコニーに迎えに来てくれた。
ニルスに振り回されていて忘れていたけれど、ルークとの約束の期限が迫りつつある。
微笑みながら隣に座ったルーク。
濃い夕暮れと逆光で…顔がよく見えない。
ただ、微笑んでいる口元が優しく動く。
「プリシラ?聞いている?」
「あ…ごめんなさい」
(笑顔の奥を読み解こうとしてました。…とは言えないです)
…ただ、気になる。
「大臣はどうなるのですか?それと、ジャック…あの占い師の罪はどうなったのですか?」
困ったような顔のルークは、言葉を選びながら静かに話してくれた。
「まだ、調べが始まったばかりだから進展はしてないよ」
(ですよね…)
ルークは少し何かを考えてから、
「ただね、大臣はジャックのニルス王子への罪は知らなかった、ジャックが勝手にした事だ。自分はジャックにアローゼ国での仕事の仲介をしただけだの一点張りでね、ジャックはジャックで、ニルス王子に付いて行きたい。あの人こそ我が主、仕えたいと…言っている。その前に罪を白状しろってアレンに言われていたよ」
「…ジャック…」
(ニルス王子に惚れたのね…?)
ルークは続ける。
「大臣は知らぬ存ぜぬを言い張っても、俺への不敬の罪は消えない…良くて爵位降格か…」
「ソフィア姫も…?」
頷くルーク。
華やかに着飾ったソフィア姫の姿が目に浮かんだ。
紅い空を埋めるように冥色が空を覆う。
何もかもが濃い闇に包まれる。灯る街の光りと、明るいお城の中へと手を引くルーク。
くすぐったいような幸せ。
なのに…。
ざわめく。
心が静かに波打っている。