あなたが好き…です。
一瞬の出来事がスローモーションのようにゆっくりと流れていた。
プリシラの叫び声は、大聖堂のカリヨンのように、応接室いっぱいにいつまでもいつまでも響き渡り、椅子から立ち上がる大臣、アレンに蹴り上げられる占い師、叫び声を聞きつけて応接室に走りこんで来たトーマス。
ルークは私を胸に抱きしめたまま大臣に聞いた。
「大臣…あなたは、この責任をどうお取りになるとお考えですか?同盟国の王子をあなたの客人が手にかけたのですよ」
ルークに問われて、大臣は小さな唸り声を上げ、ドカリと椅子に腰を落としてしまった。
占い師は、ルークの護衛たちに引きずり出されて行き、大臣はアレンに連れ出された。
私は抱きしめられていて、それで、ルークの上着が顔に当たる。
少しゴワついていて、少しヒンヤリしていて…、でもルークの体温で少し温かくて…。
それで、怖さが段々と溶けていくみたいで…。
…。
…。
で…、ニルスは大丈夫なのかしら…?
横目で、うつ伏せで転がっているニルスをチラリと…。
あぁ、可哀相なニルスは背中にナイフが刺さったまま動かない。
色々あり過ぎたけど、こんなお別れになるなんて…、ううう(泣)だわ。
トーマスは一生懸命にニルスを揺すっていて、涙なしでは見ていられない…(色々あったけど)
ルークの胸から離れて、ニルスの手を取る。まだ、温もりがある。
「ニルス…」
「ニルス様、ニルス様…」
私の横で、ニルスに話しかけるトーマス。
あぁ、トーマス。
気持ちは分かるけど、もうニルスは死んでいるのよ。
「ニルス様、いつまでも寝てないで下さい。皆さんと一緒にお城に向かいますよ」
「うるさいな、トーマス。せっかくプリシラが心配してくれているんだぞ」
私の手を握り返して、うつ伏せのままニルスが答えた。
答えたから…思いっきり手を振り払った!
「どぅ…ゆう事?生きてるの?」
起き上がったニルスは、トーマスに背中のナイフを抜いてもらい、背中とお腹に巻き付けてあった分厚い本を落とした。
「ルーク様に言われてね。大臣のとこに乗り込んで行くなら用心した方がいいって。おかげで重いし、動きにくいし大変だったんだぞ」
「あっ、そう…なんだ…」
私は立ち上がって、スカートのホコリを払ってルークの元に戻って行った。