あなたが好き…です。
緊張しまくっている私の足首に、何かが、…何かが軽くぶつかってきた。
(ひっ…!)
全身がひっくり返るような驚きに、おそるおそる目だけで下を見てみた。
亡霊が墓から這い出てきたような動きのニルスの指が、私の足首を触っている。
息が止まった。…と思ったわ。
乙女の足首に勝手に触らないでよ…。
…とは…思っても、敵に気付かれているか心配で周囲を目だけで見回してみた。
私の心配をよそに、この場にいる全員はルークと大臣の駆け引きを注視していて、誰もニルスの動きを見ていない。
そして、神の助けなのね。
総大将の大臣からは、ニルスは死角になっていた。
とりあえず…。
とにかく…ニルスを助ける事を考えなければ…。だけど、何も考えが湧いてこない。
どうしよう…。
どうすれば…。
私の怪しい動きにルークとアレンが静かに反応していた。
ような…気がする。
「お嬢さん。2人で駆け落ちしないか?」
バカ男は、相変わらず愚かな事をブツブツ言っている。
吐き気がする。
こいつ、私に殴られたせいで頭逝っちゃったに違いない。あの時、頭だけじゃなく心臓もド突いていればよかった。
プリシラ…♪ 一生の・こ・う・か・い♡
冷や汗と動かし過ぎた目のせいで、ヘロヘロになりかけた時。
…。
微かな動き。
ためらいがちな…僅かな動き。
そして、ニルスの指が私の足首から離れて行く。
…。
誰も気づかない。
2人だけの秘密。
ニルスの指が完全に私から離れて、空気が何かの重みで鋭く走った。
そして、
「ウギャー」と、バカ男の叫び声。
叫び声と同時に、気持ち悪いバカ男が私から離れて座り込んでいた。
ルークが倒れかける私を抱きしめる。
アレンはルークと私を庇うように立った。
最初は、バカ男に何が起きたか分からなかったけれど、膝を抱えてて座るバカ男の右脛にニルスの護身用のナイフが刺さっていた。
ニルスは力を使い果たしたのか、まだ床に倒れた状態だった。
バカ男はナイフを引き抜くと、そのままニルスの背中にナイフを突き刺した。