あなたが好き…です。
ニルスを心配するプリシラを見ながら、ルークは朝の事を…、ニルスが自分の私室を出る時に言った言葉を思い出していた。
しばらく話しあった後に、
「プリシラを頼みます」
ニルスは淋しそうに微笑みながら、
そう言って静かにドアを閉めて行った。
どういうつもりで、どういう意味で言ったものなのか…ニルスを連れ戻したら問いただしたい。
そして、あの時の俺の返事は…。
プリシラが不思議そうにこちらを見ている。
「ルーク、さっきから私を見ているけど、何か変?何かついている?」
「うん?可愛いなって思って」
笑顔で答える俺と、顔を赤くしながら慌てているプリシラに、呆れ顔のアレン。
これで、プリシラの緊張がほぐれただろうか?
少し時間を巻き戻して、ガーランド城…。
ルークに挨拶し終わったニルスは、朝食中だったトーマスを引き連れて、オズワルド邸に到着した。
可哀相にトーマスは、緊張で顔がこわばっている。
ニルスは笑いながら、
「トーマス、おまえ…怖いのか?」
「まさかです。私の主はニルス様だけです。どこまでも、いつまでもついて参ります」
「そう…だったな。よし、行こう…」
「はい」
ニルス達は、控え室でしばらく待たされた後にニルスだけが応接室に案内された。
そこには、偉そうなオズワルド大臣と不気味な占い師が待っていた。
笑顔の大臣は大袈裟な口調で、
「ニルス王子殿、今日はずいぶんお早い訪問で驚きました。先生にご用がおありと伺いましたが?」
先生というのは占い師の事。
ニルスは占い師の同席を望んだ…。
そして、ためらいがちな微笑みを口元に貼り付け、子供らしい仕草と口調で、
「おはようございます。僕は昨日の夜、ルーク…様を傷つけました。僕らを逃がしてくれると約束しましたよね?」
大臣の目と口元が緩んだ。
「それは…本当ですかな?傷つけたとは一体どの程度でしょう?それに…こちらにはまだ、そのような連絡はきていませんが?」
(負けていられない…な)
「臣下にそんな事を触れ回る王族などいないはず。僕にかけた術を解いて、僕らを逃がして下さい」
「なるほど、そう…ですか?そうです…な」
大臣は占い師を見た。
無表情の占い師はニルスの前に立つ。
そして、
両手でニルスの両方の頬を包み、冷たい目で静かに微笑んだ。