あなたが好き…です。
ガーランド城の執務室に全員集合した。
ニルスはイスに、プリシラのエプロンで縛られていて、疲れたのか大人しくはなっていた。
ボンヤリと焦点の合わない目が、壁の一点をじーっと見ているだけだった。
トーマスが心配そうに、一生懸命話しかけても、ニルスは表情ひとつ変えずに壁だけを見ている。
それを見下ろすプリシラ達と、ボンヤリニルスを診察しているのは、アレンの父親で宮廷医師のリチャードだった。
「父さん、どうなの?」
「健康そうだよ。持病もなさそうだし、怪我もない。強いて言えば…これは…」
「これは…?」
「私の専門は内科と、すり傷や打ち身程度の外科だからなぁ…、うーん。これは、それ以外の精神科的なものだと思うんだが…」
「だが…?」
プリシラ達が食い入るように聞いた。
「サッパリ分からん!お手上げだな。そうだな…何かショックでも与えてみるか?」
「親父、やめろ。国際問題になるから」
ヨロヨロのトーマスは、イスに座り込んで頭を抱えてしまっている。
思いあまったプリシラはニルスの手を取って話しかけた。
「ニルス様、どうしたんですか?」
今まで動きもしなかったニルスの眼球が微かに震えた。
「いいぞ!プリシラ。もっと話しかけて」
「はい。ルーク…」
プリシラがニルスの両手を強く握って(本当は嫌だったけど)、
「ニルス様、私がわかりますか?目を覚まして下さい」
ニルスの見開いた両目に涙が溢れては落ちていった。
それを診てリチャードが言った。
「…もしかしたら、何か暗示的なものが掛かっている可能性があります…」
「暗示…?」
ルークが答え、トーマスが顔を上げ、リチャードが続けた。
「あくまでも可能性ですよ。他人に掛けられたのか、自己暗示なのか…解ければ元に戻るはずです」
プリシラは少し考えてから、ルークに向かって言った。
「大臣達と一緒にいた男…」
「プリシラ、気になるって言ってたね。調べてみるよ」
「ニルス様は…どうなるの?」
「明日からだな。今日はもう遅いし、部屋を用意しよう。トーマスさんも疲れただろう?ゆっくり休んで行ってほしい」
「いえ。ニルス様の看病を…」
「こちらで誰かをつけるから、安心して休んでほしいんだ」
礼を言って頭を下げたトーマスと、エプロンで縛られたままのニルスは執務室をあとにした。
心配そうなプリシラにルークが言った。
「プリシラは行かなくていいよ」
「けど…」
ニヤニヤとアレンが笑いながら、
「やきもちだよ。ジェラシーだよ。さっきもチビ王子の手を握っている時、物凄い顔してたんだよ。おかしくて笑いこらえるの大変だったんだから」
赤くなるプリシラと、怒るルークと笑うアレン。
1人リチャードだけが真面目な顔で、
「ルーク王子、他人に掛けられた術なら、その術者が術を解かなければ元に戻らないと聞いた事があります」
「あぁ、俺も聞いた事がある」
「ルーク様…」
プリシラは、ニルス王子には悪いけど今のままの方が…、と。