あなたが好き…で
控えの部屋でトーマスは、机に突っ伏していた。
プリシラは息をのみ込みながら、
「トーマスさん…死んでいるの?」
ルークはトーマスの脈を診て、
「いや、眠っているだけだ。睡眠薬を盛られたんだろうな」
机の上、トーマスの頭の横には空のワイングラスが転がっていた。
「大臣…。何がしたいんだ」
呟くアレンにルークが答えた。
「とにかく、チビ王子を捕獲に行くぞ」
ニルスは、テーブルの前に座っていても目も開けていられずに、コクリコクリと舟をこいでいる。そんな状態なのに大臣は気にもせずに、
「娘のソフィアとルーク王子は婚約まで話が進んでいました。聞けば、ニルス王子とプリシラ姫も婚約されていたとか…」
ニルスは朦朧としながら、
(プリシラと婚約なんて…してたかな?)
占い師は穏やかな声で、
「体調がお悪いようですね?私が診てあげましょう。さぁ、私の目を見て下さい。楽になりますよ」
条件反射のようにして見てしまった占い師の目は爬虫類の目のようで、ニルスは体が固まったように動けなくなった。
大臣が話を続けた。
「私はこの国の政治に深く関わりたいのです。そのためには娘とルーク王子には結婚してもらわなければならない。ニルス王子にはプリシラ姫を国に連れて帰ってほしいと思っています」
ニルスは声を絞り出す。
「そんな…事…」
大臣は微笑みながら、
「簡単です。ルーク王子を少しだけ怒らせればいいのです。あなたは国外追放になります。プリシラ姫を連れて行けるように私が上手く口添えしましょう。どうでしょう?いい話だと思いますよ」
「プリシラ…を?」
(どうしたんだろう?夢の中にいるみたいに体に力が入らない)
大臣は微笑みながら続けた。
「そうです。私に任せればニルス王子の望むままです。私達2人で両国に繁栄をもたらしましょう」
ニルスは遠い意識の中で、ボンヤリと考えていた。
自分が国王になり、隣に王妃のプリシラが微笑んでいる。
涙がこぼれてくる…夢のように儚い夢。