あなたが好き…
ガーランド王城のルークの執務室。
アレンがルークに聞いた。
「ルーク。今聞いたんだが、今日、チビ王子が城に来るって本当なのか?」
ルークは静かに答えた。
「あぁ、本当だ。なにせ、隣国の次期(?)国王様がお忍び(バレバレ)とはいえ、長期滞在しているのを知ってしまった以上放ってはおけない。…と、なった。と聞いたけどな…」
「聞いたけど。って、まるで他人事だな」
「対応するのは父上達だからな。どうしようも…ないし…な。だけど、懸念材料はある」
と、興味もなさそうな口調だった。
「プリシラ姫のことだろう?」
「チビ王子が、父上達に何か吹き込む可能性もあるからな…」
「プリシラ姫のことは、陛下達には言ってあるのか?」
「万全に言ってある」
「抜け目ないな。なら、大丈夫だろう。で、プリシラ姫は?今日は来てないのか?」
「来ている…けど…」
「ん?けど…?」
ガーランド城の王妃の私室。
綺麗な布地にリボンやレースが、テーブルやソファいっぱいに並べられていた。
目を丸くしてそれらを眺めるプリシラと、凄く得意気な王妃様と商人らしき人物。
「綺麗でしょう?婚約式のドレスを作っちゃいましょうよ。プリシラちゃんは淡い色も濃い色も似合うから…どれにする?」
「えっ?…いえ…その」
(どれにするって?…そもそも…婚約するなんて…言ってません…けど?)
商人らしき人物が微笑みながら、
「こちらの淡い藤色の生地にレースかシフォンを重ねた物がお似合いかと…」
(…おじさんも煽るな…)
「そうよね。私は瑠璃色もいいと思うのよね。どうする?プリシラちゃん?」
(はぁー。ため息しか出ない)
「王妃様。大変ありがたいお話しなのですが、私1人では決めかねます。…家族と相談しませんと…」
(ドレス作ってもらって、やっぱり婚約ナシで国に帰ります♪とか言ったら事件になりそうだ)
「あぁ、そうよね…。私ったら…」
(王妃様がショボショボしちゃったわ。やばい…か?)
「だったら、普通のドレス作りましょう♪」
「…いっ、いいえ…。本当に!今日は…これからルーク様とお約束がありますから」
プリシラは、そう言うと急いで部屋を退室した。
中庭に面した壁一面に広がる窓達から、午前の淡い陽の光りが差し込み、廊下を海の底のようにゆらゆらと輝かせている。
遠い昔に見た夢のような感覚。
ルーク様と約束まではまだ時間があった。