あなたが好き…
ニルスは宿泊している高級ホテルで、3年前の誕生日を思い出していた。
誕生パーティーなんて億劫だった。
招待客のほとんどが子供というのが、バカにされているようで…不愉快だった。
自分は大人の中でも上手く立ち回れるという自負があった。
だから、両親の後ろを回遊魚の群れが泳ぐように、招待客の間をついて歩く。保護されているという…自分が実に恥ずかしかった。
おまえは子供だ。と、親という足枷がいるのだ。と、体に烙印を1個づつ押されていっているようだった。
ープリシラの前に立つまでは…ー
緑色の風が吹き抜く庭園。幾つも並ぶお菓子と飲み物が載ったテーブルの前で、プリシラは僕を待っていてくれた。
輝く日差しを乱反射する白いテーブルクロスよりもプリシラは光り輝いていた。
まさに、女神か天使のような輝きだった。
何を会話したのか覚えていない。
いや、神や天使と会話して、内容をしっかり覚えていられる方がおかしいとは、思う。
…初恋だった。
初めての感情。
自分だけでは持て余す恋情。
泣きたくなるほどの激情だった。
声にもならずに戸惑う僕は、プリシラともっと一緒にいたかったのに、次があるからと、犬と散歩するように連れて行かれた。
…僕の黒歴史だ。
だけど、手を引く父が言った。
「この中にニルスの味方になってくれる友達がいるかもな」
母も笑いながら言った。
「お嫁さんもいるかもね」
父がいう友達とは、腹心のことだろう。
この会話は渡りに船だった。
「それなら、僕が王様になったら好きな人をお嫁さんにできるの?」
父は戸惑っていたけど、
「ニルスが王様になってくれるのかい?」
「はい。だから、約束して下さい」
両親は2人とも微笑んでいた。
…約束を取り付けた。
後継者問題として、上2人の兄は父の跡継ぎの国王には向いていなかった。
長男は優しすぎ大人し過ぎ、次男は軍人の方がいいと言い、2人とも国政には全く興味を示さなかった。僕に期待がかかるのは当然の成り行きだが、そこは大人の事情ですんなりとはいかない。
だからこその確たる約束。
プリシラを得るための取り引き。
それなのに…。
それなのに。