あなたが好き…
翌日早朝の、ガーランド王国にあるエドモンド邸。
玄関先でニルスが叫んでいる。
「どういう事なのだ。プリシラが出掛けたって、まだ8時だぞ。こんなに朝早くどこに行ったっていうんだ」
「まぁ、ニルス様。姫様は、つい先ほど…お城へ参りましたわ」
ウエラは一生懸命に、申し訳なさそうな顔を作っていた。
「何時に帰るのだ?」
不満げにニルスは聞いた。
「申し訳ございません。伺っておりませんでしたわ」
そう言ってウエラは、軽く会釈をした。
「…わかった。邪魔をして悪かった」
ふて腐れ気味にそう言うと、ニルスは急いで馬車に乗り込んだ。
ニルスの姿が見えなくなると、ドアの陰に隠れていたジュリアンが出て来て、ウエラと2人で玄関先に立ち、遠い目をしながら走り出した馬車を見送った。
「残念だよな、チビ王子。プリシラと年齢が逆だったらチャンスがあったかも知れなかったのにな。本当に残念だよな…」
ウエラはため息をついて
「そうでございますよね。…ですけど…、例えばですよ、お二人が大人になってからの御縁談なら違ったのかも知れませんわ。7才差位なら珍しくありませんから…。ですが、今の状態では先生と生徒みたいで…姫様は結婚相手として考える事は…無理なんでしょうね」
ジュリアンはあくびをしたあとに
「大人になるまで待っていたら、どこかの誰かにさらわれて行くと焦ったんじゃないの?~現に誰かに連れて行かれているし」
2人は静かに廊下を歩き出した。
「誰か様に感謝です」
「だな…」
ニルスは馬車の中で腕組みをしたまま行き先を言わなかった。
言わないニルスにトーマスが、
「ニルス様、お城へ参りすか?」
「いや行かない。僕は…これ以上惨めになりたくない」
「はい?何が…惨めなんですか」
「だって、そうだろう?謁見の約束もないのに、プリシラがいるからといって城に押しかけて行くなんて、…凄く、子供じみている」
そう言うと俯いてしまった。
「それなら…帰って、作戦を練りますか?」
「さすがはトーマスだ。そうしよう」
ニルスの顔がパァッと明るくなった。