逢いたくて…。
プロポーズは…断った。
…断ったはず。
お母様と兄様も遠い目をしている。
…多分、断った事を思い出している…。
向かい合うルーク様の肩越しに、あの頃の記憶を掘り返えしてみよう。
薔薇の花香るガゼボの中で、薔薇の枝を血だらけの両手で持ちひざまずくニルス様。
(早く手当てした方いいんじゃないの?)
「結婚して下さい」
(…。笑顔が眩し過ぎて断りづらいな。…だけど、まったくにごめんなさいだわ)
神妙な笑顔を作りつつ、
「私は…まだ14才なので、結婚とか考えられないから…、ごめんなさい」
(まだ子供だし、王子様だから傷つけたら大変だ…)
「僕が子供だから?…それなら、僕が大人になったら結婚して下さい」
(面倒くさいな…)
「うぅ…んとね、そんな先の約束できませんよ。それに、ニルス様が大人になるまで待っていたら私の適齢期過ぎちゃうし…」
ニルス様は笑顔になって、
「それなら大丈夫です。僕は大人になる前に、15才になったら迎えに行きます」
(あぁん、また面倒くさい事言い出した?)
思い出話を聞いていたルーク様が、
「どうして15才なの?」
それにはお母様が答えた。
「ニルス様のご両親である両陛下は、17才と15才でご結婚されているので…その年齢になれば結婚できる。と思っていたのかと…」
ルーク様は「なる程」と。
「それで、面倒くさくなった私は兄様のところへ走って逃げました」
兄様は腕組みをしながら、
「あの時、話を聞いた俺は…なんかヤバいと感じて、すぐにプリシラを連れて帰った」
お母様が続けた。
「次の日から大量のプレゼントや、お誘いの招待状やら本人がお見えになったりで…、プリシラがノイローゼになってしまって…」
これに、家族3人でため息をついた。
「夫から両陛下に事情を説明し、このお話は正式にお断りしたんですけど、ニルス様には全然伝わらないみたいであの調子なんです。陛下は、留学も考えていられますけど…」
「だから、ニルス様が15才になる前に、私が祖父母の城に行こうと思ってます」
ルーク様が驚いて、
「えっ?なんで?もしかして、森のお城?」
「はい。祖父母の城は大聖堂の近くにあります。あの街は法王庁の管轄なので治外法権になります。王族でも手出しだせません。だから…余生を気楽に暮らそうと思って…」
(ニルス様から逃げられれば、私は自然の中で楽しく暮らせる…)
あれ?
楽しい未来を語っているのに、胸が苦しい。口が上手く動かない。
私じゃない私がここにいる。
今、目の前のルーク様の顔を、目を上手く見つめる事ができない。
今度はルーク様がため息をついた。
その後すぐに、
「だから…そこへ行くと?」
嘘つき私が答える。
「はい」
(ルーク様、…怒っている?)
ルーク様の顔が怖い。
お母様と兄様は静かに部屋を出て行った。