逢いたくて…。
ニルス様達が帰った後に、ルーク様が極上の笑顔で聞いてきた。
「えーと、どういう事なのかな?聞かせてくれる?」
(えーと、ですよね?)
私達家族は顔を見合わせ、うなずき合ってから…みんなでため息をついた。
で、仕方ないので、ルーク様の目を見ないようにぽちぽちと話しを始めた。
「3年前の、ニルス様が7才のお誕生会がお城であったんです…」
ルーク様は頷く。
3年前のアローゼ城の薔薇の花香る庭で、ニルス様の誕生会は開かれていた。
ニルス様の誕生会という事なのか、招待客の多くが貴族の子女達だった。
この時…14才の私は、周りにいる子達より(多少)年がいっていたけど、(兄様もいたから)まったく気にしないでいた。
柔らかな陽射しに、甘いお菓子の匂い。
本当に…お菓子を食べるだけ食べて帰るつもりだった。
両陛下に連れられたニルス様が挨拶に来るまでは…。
両陛下に促されると、ニルス様は紅潮した頬でぺこりと頭を下げ、堂々と大きな声でご挨拶をしてくれた。
「ニルスです。よろしくお願いします」
それは、もう可愛いらしいご挨拶だった。
思い返せば、ニルス様は私をガン見していたような記憶がある。あの時は、まったく何も感じていなかったけど。
私達との挨拶が終わり、両陛下と一緒に歩き出しても、そういえば、チラチラとこっちを振り返っていた…ような?
「ニルス様は、ひと通りに皆様へのご挨拶が終わると、まっすぐに、こちらに走って来ました。そして、笑顔のまま私から離れなくなってしまい、何を思われたのか、突然に薔薇の枝を折りトゲで血を垂らしながら、プロポーズを…」
(恥ずかしくて、あの時は逃げたかったな…)
「何故、急にプロポーズを?」
ルーク様が呟く。
答える私。
「まったく、わかりません」
あの時、急いで走って来たニルス様はしばらく私の回りでお話ししたりしていたけど、突然に怖いお顔になると、
「プリシラ姫。あちらで、2人でお話ししましょう」
ニルス様が指さした方には、蔓薔薇のアーチが広がり奥には白いガゼボもあった。
断る間もない私の手を取り、子供とは思えない力で私をガゼボまで連れて走った。
そして、多分…目についた、植木の赤い薔薇を手折りトゲで血を垂らし、走ったためにゼーハーと息を切らしながら、
「一生大事にします。僕のお嫁さんになって下さい」
受け取った私も息を切らしていたな…。
ルーク様は不思議そうに、
「それが、愛と血判の薔薇の花束?じゃあ、誓いの書と愛の言葉は?」
「事前にお渡ししたお誕生日プレゼントの絵本と、お誕生日おめでとうございます。の言葉だと思います」
「あぁ、なるほど…。で、受けたの?プロポーズを?」
真顔のルーク様の言葉で、応接室の空気が一瞬で、急速冷凍された。