逢いたくて
薔薇の甘い香りが漂う裏庭。
「犬達は、プリシラに慣れたみたいですね」
「番犬って聞いていたのに、凄く人懐っこくて驚いています」
犬達は、一匹が拾ってきた枝の取り合いを始めた。
「俺と一緒で、あの犬達いざとなると強いんですよ。プリシラを必ず守ります。だけど本音言うと、いざとならない方がいいんです」
ルーク様が照れ笑いしている。
…ここは、笑った方がいいのかな?
頭の中ではルーク様の笑顔に会話を合わせようと必死だけど、だけどね…、胸がキュンと熱くなって、頬も赤くなってきて…、何を話せばいいのか分からない。
自分でね、自分の心のコントロールができないの。
庭の木々の葉を抜けて通る風と光の中、ルークは、自分の目の前にいるプリシラの頬が少し赤くなって、瞳が潤んでいる。…気がした。
(俺は、変な事言ったのか?プリシラは怒ってしまったのかな?呆れた?やっぱり、守りますは、…おかしかったのか?)
悩むルークを見つめるプリシラ。
ルーク様の顔に、木漏れ日の光りがユラユラ揺れている。
その光るルーク様の顔が赤くなったり、瞳が困惑して翳ったりしていて…、あぁ、そうか…お仕事でお疲れなのでは?
「プリシラ、その…、プリシラは向こうでは、どんな風に過ごしていたんですか?」
(会話がもたないからって、なんだ…この話題は、これじゃあ…大人の天気の確認並みの会話じゃないか?何やってんだ俺は…)
聞かれたプリシラは、
(…どうやって過ごすって…。一般の姫君達は何して暮らしているの?友達いないからわからないよ)
「私は、あの…」
目を…そらす…私。
「うん?」
興味あり気に食い付いてきたルーク様。
「あの…」
「うん。うん」
(もう、どうでもいいや…)
「牧場や農場で子供達の世話したり…収穫のお手伝い…かな?」
ルークはプリシラの意外な答えに驚いた。姫君達という人種は、1日中ドレスと宝石の事ばかり考えていると思っていた。
「子供達って、保育園とかですか?確かに親が農場で働いていれば見ていてくれる人がいませんからね。プリシラは優しいんですね。牧場や農場に行くのは動物が好きなの?」
(…いいえルーク様。世話してるのは、羊やヤギやアヒルの子供達です…。)
「自然が好きで…。将来的に祖父母が住んでいる田舎の領地に住もうかなって…、綺麗なところなんです。森と湖に囲まれていて」
ルーク様の顔が真顔になった。
「森と湖に囲まれた城なら、この国にも幾つかあります。全部プリシラにあげます。この国に…、俺の側にいて下さい」
(しまった。将来の夢…言わなきゃ良かった)
ルークはプリシラの両手を握りながら、
「帰すつもりはないから」
「あっ、いえ…その、色々事情があって…」
「事情?ってなんですか?」
2人の側で遊んでいた犬達が一斉に遊びをやめると、低く唸ったり威嚇するように吠え始める。
驚くプリシラをかばうようにルークが立ち上がった。
足音とともに、甘い香りの薔薇の木の間から声が聞こえてきた。
「プリシラ、会いたかった」