バケーション。
清々しい朝の光で目覚める私。
目を開けて最初に見えたのは、ソファで眠るお兄様…。金色の髪が顔にかかって素敵ね。
「で、…兄様?何やっているの?」
「おはよう。可愛い妹が心配だから、寝ずに番をしていたつもりが…」
「寝てしまったのね…」
「不覚だ!…った。先に朝食に行っているからね。着替えておいで」
眠そうに髪を掻き上げながら部屋から出ていく兄様。
前に使っていた部屋の窓ガラスは治ったけれど…使う気にはなれなくて、兄様の隣の部屋に引っ越して来た。
兄様が…気楽に来るようになったな…。
あの部屋はお気に入りだった…。
窓から見える庭木や、表通りの街路樹にガス灯…。
…絵本の中の風景のようだったなぁ。
(あのぉ泥~棒!今度会ったら叩き潰してやる!)
泥棒への誓い。だ!
朝食を済ませて庭で犬と遊んでいると、兄様が真剣な顔で慌てて走って来る。
「兄様…どうしたんですか?」
(お茶の時間かな…?)
「今、お城から使者がお見えになって、トーマスが脱獄したって」
(…はい?えーと…誰?)
「どちらのトーマスさんですか?」
キョトンとしている私に、
「泥棒だよ。邸に入ってきた泥棒だよ」
「はい?」
そう言えば、昨日警察から帰って来た兄様がそんな名前言っていた…。
ボサボサの髪がかかった死んだような目のヤツレた顔だったと…。
怒りでいっぱいで、名前なんて覚えられなかった。
「脱獄って事は警察から逃げたって事なの?…それって、私に仕返しに来るかもしれないって事…?」
「まさか仕返しなんてないだろう。それにルーク様からの警護も万全だから大丈夫だよ。そこのところは安心していいよ」
兄様の両手が、そっと私の両の頬を優しく包んでくれる。
こんなに優しいのに…何故彼女いないの?