バケーション。
楽しいデートも終わりの時間。
夕焼けが広がる空に、教会の鐘が鳴り響いている。
帰りの馬車の中でルーク様が、
「本当に好きな人はいないのですか?片思いの貴族とか、憧れの騎士とか…」
「1人もいません」
不思議そうにプリシラは返事をする。
「今までも…?」
「は…い」
「それを聞いて安心しました」
ふっと、伏し目がちになったプリシラが気にはなる。けれど、
(本当に誰もいなかったんだ…。いても…気にしない。プリシラを国に帰さないだけだ)
馬車がエドモンド邸に着いたので、プリシラは降りようとすると、
「お兄様とお茶会楽しんで来て下さい。あとでどんなだったのか教えて下さいね」
「はい…」
ルークは少し何かを考えてから、
「今日はありがとう。また、遊びに行きましょうね。あとで連絡します。お休みなさい」
「はい。お休みなさい」
走る馬車の窓から手を振るルーク様に、
(ルーク様、プレッシャーかけないで…)
出迎えてくれたお母様とウエラに、大量のお土産を渡すと自室のベッドに座り込んだ。
ルーク様の言葉を思い出しながら、
(好きな人も憧れの人もいません。ただ…)
うわぁー!と叫びたいよ。
暗くなり始めた空に星が瞬いている。
ルーク様と初めて踊った日の空みたい…。
城に戻ったルークはソファにもたれかかっていた。
最後に言いたかったのは、言葉を飲んでしまった言葉は、
「帰るな。あなたと離れたくない」
だが、まだ…言えない。
プリシラの気持ちが判らない。
2人の、心の距離がとても…もどかしい。
…プリシラ、こんなに悩んでいるのは、生まれて初めてだよ。
つい、ため息が口をつく。
お試し期間なんて設けなければよかった。
最悪の失策だったな…。
お茶会当日。
青空に、お日様輝くエドモンド邸。
お茶会は午後からなのに、朝からお母様とウエラにお肌の手入れをされていた。
「お茶会は午後からなのに…ね」
隣で、兄ジュリアンもパックをしながら、
「可愛い妹よ。レディにとって夜会と茶会は戦場だよ。武装の下準備をおろそかにしてはいけないよ」
「兄様はいつからレディになったの?」
「美しい男にも下準備は必要なのさ…」
私達の前に立ったお母様が、
「2人ともパック中に話さない。暇なら本でも読んでいて。終わったら早めに昼食よ」
ルーク様、頑張ります。




