バケーション。
馬車の席に座ったプリシラは目の前に座るルーク様を見ながら、
「はい」
と、馬車に乗り込んだのはいいけれど…、
えーっと?…、何を話せばいい…?
ルークも、お人形のようにチョコンと座るプリシラを前にして、
(…いいお天気ですね?…??)
いや、絶対…違うよな。
窓に流れる景色、とどまる沈黙。
ルークは、心の中で深呼吸してから、
「お腹すきませんか?お芝居は午後からなので、先に食事に行きましょう」
プリシラも緊張がほぐれたのか、ニコリと微笑んだ。
しばらく街中を走った馬車は、老舗風のレストランの前で2人をおろした。
(はぁぁ… )プリシラは心の中で、ため息ついた。
ルーク様に連れて来てもらったレストランはおしゃれで素敵で、…高級そうで、
「昔から人気の店なんです。美味しいし、気に入ってもらえると嬉しいです」
(…はい、ルーク様。とてもあなた様にお似合いです)
優雅にエスコートされて微笑まれると、神々しい光線が、自分の中の凝り固まった泥人形をグズグズ溶かしてゆくのを感じる。
ルークは、目の前で美味しそうにデザートを食べるプリシラを見て、前日にアレンと2人でレストランの下見に来ていて正解だったと、心から思った。
食事が済んでから劇場に行き、王都で流行りのお芝居を鑑賞して、今はルーク様と帰りの馬車の中にいる。
お昼ご飯は美味しかった…。
お芝居も素晴らしかっ…た。
何より、ルーク様の笑顔が眩しい。
眩し過ぎて、心が波打ちます。
1ヶ月後に、私はどうしたらいいのだろう。
「また連絡します」
と言われ、ルーク様に見送られながら家に帰ると、
「お帰りなさい♪プリシラ~♪」
「!!」
「お帰り!プリシラ!王子様とデートだったんだって?さすがは我が妹♪よくやった」
「!!」
「…お母様に兄様、何でいるの?」
「失礼だな~♪可愛い妹のために遠路はるばる王都に来たんだぜ」
(…頼んでない…)
お父様がいつものように穏やかに、
「プリシラ、私は向こうの仕事で来週には帰る事になったんだけど、1ヶ月の間、未成年のプリシラを置いて行くわけに行かないだろう?だから、シェリルに頼んだんだよ」
「プリシラったら、デート着も持って来てないって聞いたから、持って来たわよ~」
(お母様、デートする予定で来てません)
「及ばずながら、俺も協力するから」
(兄様…いや、いい。面倒臭くなるから)




