出逢い7
苺店でお仕事 4日目。
透き通るような青空に、賑わう広場。
もう、お昼が近いのに謎のお客様のご来店がありません。いつもは早い時間にいらっしゃるのに…。
「今日はお見えになるのが、遅いですね。何かあったんでしょうか」
ウエラが問いかけてきた。
「昨日、2回もいらっしゃったから…、今日は来ないのかも。それに、毎日いらっしゃる方が…変よね?」
「そうなんですか?お寂しいですね」
(今…何故?私が寂しいと思った?)
ウエラ、気を回しすぎだよ。
お昼も過ぎて行き…。
(来ない…)
お昼休憩に行っている時間が生き地獄のようだった。もし、私がいない間に来店していてモーリス達ちゃんと応対できてる?とか思うと…、ご飯が美味しくない。
美味しそうに食べているウエラがうらやましい。
「食べないと、あとでお腹空きますよ。あのお客様は、きっと、今日は午後からのご来店なんですよ。急いで戻りましょうね」
優しいウエラ。
(あぁ…何故、あのお客様に結び付けたがる?)
お昼休憩が終わって…、
お店に戻っても…来てなかった。
店番に戻っても…買いに来ない。
私がお店でお仕事できるのは今日が最後になる。昨日、お父様がこちらに到着されて、「明日は王宮の夜会にプリシラも出席だから準備を怠らないように。と、もうひとつ、来週の帰国の準備も忘れないように」と、デカい釘を撃ち込んできた。
(夜会なんか、面倒臭くて行きたくないわ)
お母様が来れば、私は夜会なんか行かなくてよかったのに…。
何が、「アローゼに残る息子が心配で…」よ。息子、20才オーバーだから。何の心配もいらない年だから。なんなら、親はうるさい年頃だから。面倒臭がらずにこっちに来てよね。王都に1人寂しくいる年頃の娘は心配じゃないの。私、凄くかわいそう…。
ブチブチと家族の事を悩みながら、行き交う人達を見ている。
みんな自分の人生を一生懸命に生きていて、私だけがこの広場で1人ぼっちみたい。
午後の青い空に、心が溶けそう…。
「姫様。忙しいから、眠いなら帰って寝て下さい」
ウエラに怒られた。
…黙想もできやしない。
苺の売れ行きは凄く良くて、夕方近くには売り切れていた。時間も時間なので、補充はしないでいる。
紅い風に誘われて、空が紫を帯びてきて、ガス灯に灯が灯り始めた。夕焼けの中、広場の中央に楽団が演奏の準備を始めている。
「姫様、私達も帰りましょうか?」
「そうね…」
…名残惜しかった。
初めての街での、初めてのお仕事。
初めて知った…名残惜しいと思う気持ち。
楽団とは逆に、私達は店の後片付けを始めた。
「あら?姫様…。いらっしゃいましたよ」
ウエラの言葉に振り向く。
謎のお客様が息を切らせて立っていた。立っているけど、売れる苺が…ない。
「ごめんなさい。苺は売り切れてしまって…」
私の言葉に謎のお客様は、優雅に手を出して、
「一緒に踊って下さい」って。
ウエラが目を丸くしているのがわかる。モーリスやロックの目つきが変わり、衛兵達はカマやナイフを持った。
だけど、心配かけてみんなごめんね。
ガーランドでの思い出作りたいから。
「はい」
と、応えて2人で踊りの輪の中に吸い込まれた…。