あなたが好き
私、プリシラ・エドモンド 17才。
紫色の瞳と、毛先に緩いウェーブがかかる金髪が自慢です。
只今、その自慢の金髪が流れる後頭部に、何かゴツゴツしたものを突き付けられています。感じる細さと冷たさから、おそらく銃口かな?と思っています。
ため息が出ちゃうよ…。
ここは、悪者の大臣(名前なんだったかな?)所有の食品加工工場(表向き)前です。
今は麻薬工場になっている。
麻薬工場を抜きにすれば、見える景色は青空と白い雲、森を渡る風に小鳥の声。ロケーションは最高なんです…。
どうして…こうなってしまったのかな…と。
あの時は…、
兄様と、邪魔にならないようにと、遠くから工場を見ていた。
そして、後ろの方から歩いて来た、緑色のローブを着たソフィア様に話しかけられて、確か…、
「離れて見ていないで、あちらに参りましょう」
だったかな?
ソフィア様の横には、ホテルで見かけた侍女が寄り添っている。ホテルでは分からなかったけれど、頭髪に白い毛が見える、厳しい表情の顔立ちの女性だった。
兄様に笑顔がない。
笑顔がないまま兄様は流れるように言った。
「いえ。我々は、足を引っぱるといけませんので、ここで大人しく見ていることに致します」
兄様の返事に、ソフィア様はローブのフードの中で少しだけ小首を傾げた。
私から見ていても綺麗な人だと思う。男の人はみんな好きな顔なんじゃないのかな?って。
…ルークは、どうして…私なんだろう。
どうして、私を選んだんだろう?
最初の頃の私みたいに国益のため…なのかな。
モヤモヤ、モヤモヤがお腹の中で湧き立って、呼吸と一緒に口から出てきそう。
「まぁ、では私達はあちらに参りますわね」
ソフィア様は微笑み、そう言って、道の路肩に停めてあるご自分の馬車へと歩いて…行く。と思っていた。
会釈をして、私達の真横を通り…完全に私達の後ろへと…、姿が視界から消えた瞬間に後頭部に冷たい異物感をゴツりと感じた。冷たい何かの先から、恐怖が血液の流れに乗って全身に一気に広がる。
「何をするんだ!」
兄様が叫んだ。
兄様、あんなに大きな声出るんだね。
その兄様の顎には、侍女が銃口を突き付けた。
「お静かに。あちらに、ご同行をお願いします」
兄様を見て、私の後ろ頭も銃口と悟った。
言う通りにするしかない。と、目と目で頷いた私達。
私達はゆっくりと工場の玄関前に歩き出した。