あなたが好き
ルーク達は工場からは見えない大木の根元に集まっていた。
騎士達は、どの顔も力強く輝いている。
「中で働いているのは民間人だ。傷を付ける事は許さない、救い出すんだ。だが、側にいるのは盗賊だ。見極めろ。そして、肝心なのは自分を大事にする事だ。誰1人欠ける事も許さない。頼む…生きて戻って来てくれ」
ルークは、最初は笑顔で後には真顔で聞く者達を鼓舞し、最後に深々と頭を下げた。
場所が場所なので、頷く騎士、微笑む騎士、黙って片手を上げたりと、それぞれの考えでルークの言葉に応えていた。
全員の顔を確認してルークは言った。
「よし。行くぞ」
森の木陰から工場を見学しているプリシラは、風に載って聞こえてくるざわめきに、恐怖と好奇心から兄の顔を見つめていた。
「行かないよ。邪魔になるといけない。俺達の行ける範囲はここまでだからね」
プリシラは軽く頷いた。
工場へ続く道を勢いをつけて馬車が1台駆けて行った。
「何かしら?」
呟くプリシラと、顔をしかめるジュリアン。
「あの馬車は…大臣かもしれないな…」
「それって、ルークは大丈夫かしら」
そういうとプリシラは走り出した。
「プリシラ!待つんだ」
叫ぶジュリアン。
「2人とも、止まって下さい」
追う護衛。
ルーク達に奇襲をかけられた工場は、むせ返るような麻薬の匂いの中、天敵に襲われた動物の群れのような騒ぎになっていた。
プリシラが工場に近付いてみると、工場の外には逃げて来た人達をジャックが見張り、外側の警備兵と大臣が何かの話しをしているようだった。
もっと近くに…と、歩くプリシラ。
寄り添うジュリアン。
2人を守りながら周囲を警戒する護衛。
工場側からは、誰もプリシラ達に気付いていないみたいだった。
見つかる事を恐れた3人は、それ以上歩くのをやめた。
夢を見るように、ただの傍観者で工場を見ている事しかできなかった。