あなたが好き
「ご無事でしょうか?」
…この声は…。
「ソフィア様…」
私を抱きしめる兄様の胸が振動している。
(ソフィア様…?)
兄様の腕の中でソフィア様を見ようと、顔を上下左右に動かし、空いた腕の隙から見えたソフィア様は、緑のローブから天に向け伸ばした右手に拳銃を握っている。
蜘蛛の子が散るように逃げるチンピラ達。
倒れて痛がっているチンピラもいる。
微笑むソフィア様…。
私を見て笑うソフィア様。
「間に合って良かったですわ。この辺は治安が乱れておりますから、馬車から降りられませんように願いますわ。この者達はこちらで処分致します。さぁ、馬車にお戻り下さい」
(処分って…)
私と兄様はお礼を言うと馬車に戻った。
窓からは、こちらを見つめるソフィア姫と、従者に抑えられているチンピラが見える。
ソフィア様は、…まだ笑っている。
馬車が動き始めると兄様が何かを考えている。ので、何か重要事項を知ったのかと思って食い入るように聞いてみた。
可愛い私の魅力に負けた兄様が口を開いた。
「いや、あのお姫さん、やたら都合良く現れたよなと思って…」
「…!?」
カタカタとなる車輪の音が緩み始め、やがて止まると窓の外を警戒しながら兄様が微笑む。
「さぁ、行きますよ」
馬車が止まった場所は、街外れの森の前の広場だった。遠くにレンガの塀に囲まれた建物の屋根だけが見えている。
建物の周りには川と畑が広がっていて、人工物の建物だけが異物感を空気に振動させていた。
「あれは?」
「麻薬の工場だ。」