出逢い4
ウエラが目を丸くしている。
私も聞き間違えたかな?と思って、
「あの、全部ですか?」
「はい、全部です。置かれている苺全部です」
10籠以上は並んでいる。
「あの、お一人ですよね?どうやって持って行かれますか?」
「それなら大丈夫です。台車持って来ました」
誇らしげな若者の横には小さな台車が置いてある。農夫見習い達が苺を落とさないように台車に載せた。支払いを済ませると若者は苺達を連れて、名残惜しそうに街の奥へ吸い込まれて行った。
人混みに紛れる若者を見ながらウエラが呟いた。
「あんなに…苺食べれるんでしょうか?」
「ケーキ屋さんかもしれないわね」
と、私。
ロックとモーリスは次の苺の補充に畑に走って行き、補充された苺はすぐにワゴンに並んだ。
苺店でお仕事 2日目。
翌日になると、例の若者はまた現れた。お供のワゴンを連れて。
まさか、今日も全部買うとは思わなかったので、
「何籠でしょうか?」と聞くと、
「全部です。ここにあるの全部です」
さすがに不思議に思ったウエラが、
「昨日、お買い上げになった苺はもう食べられてしまったのですか?」
「わが家は…その…家族が多くて、もう残りが少なくなったんです」
「あぁ、そうだったんですね?ありがとうございます。すぐに台車に載せますね」
上客の機嫌が曲がってしまうとまずい。そう思ってサッサと台車に載せた。
上客は何か言いたげにしていたけど、お金を払って、今日も1人、苺達を連れて街の中に溶けて行った。
「まさか、今日も全部買って行くとは…」
ウエラの独り言。
頷く私。
「また明日も来るかしら?」
「どうでしょうねぇ?」
ウエラの答えは素っ気なかった。
忙しい1日が終わって、窓辺に立ち月を見上げた。明日も忙しい…かも知れない。
自国で、暇な貴族達の相手をしていたら得られなかった忙しいという自由が凄く嬉しかった。
「うふふふふふ」
結局、興奮してよく眠れなかった。