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あなたが好き

 ゼリーの中のような重い密度の空気が漂う廊下を、小走りに歩いた。

 

 着替えている間にいい時間になっていたせいか廊下では、何人かの泊まり客とすれ違った。

 新婚夫婦(恋人かもしれないけど)に、子連れに老夫婦、街がさびれていても客は来るのか…。

 そんな風に思いながらすれ違っていたら、女性の2人連れが佇んでいた。(禍禍しくて幽霊かと思った…)緑色のローブのフードを目深に被リ俯く若い女性(多分、顔が見えない)と、年かさの侍女らしき2人連れが絵画のように壁に溶け込んでいる。

 そして私は、確信した。

 空気の震えはこの2人からだと…。


 心の中で、まとわりつく重い空気を払いのけながら、走った(ダッシュ)。

 (ドレスが重い…。いい食前運動になるわ)

 けっして、お腹が空いて我慢できないから走ったわけじゃない。

 幼い迷子が絶対的に安心な大人を求めるように、手を差し伸べられる相手に向かうだけ。

 迷路にも思えるホテルの廊下を走り、迷宮の階段を駆け下りた。

 

 息を切らし走り下りてきた私を、愛しき保護者たちは驚いて見つめている。

 優しい笑顔のルークとアレン。眠たそうな兄様と、ジャックは不機嫌そうにソファに深く座っている。(二日酔いだな…)

 ルークは優しい笑顔のままで言ってくれた。

「プリシラ、…そんなに急いで来なくても…待っているのに」

 兄様も笑顔で言ってくれた。

「姫君のお腹が鳴る前にレストランに行きますか」

(兄様…後で覚えていろよ…)

 ルークの右手が優しく私の腰に添えらる。私を見つめる照れたような目が熱い。

 震える心と裏腹に、ルークを見上げる私の頬も赤く染ってしまう…じゃないの。

 (みんな見ているから、恥ずかしいよ…)

 安心感は人を臆病にしてしまう。だけど、今は安心に漂っていたい。


 ホテルの小洒落たレストランは、朝食時のせいか凄く混んでいた。

 が、そこは気の利くアレンが大きなテーブルを予約していてくれたので、みんなで楽しく座る事ができた。

 二日酔いの2人は食欲無さそうだったし、ルークとアレンは2人にしか分からない話しをしていて、私は愛想笑いと愛想返事くらいだけど、みんなで食べる朝ごはんは、私史上初の美味しさだと思う。

 

 ただ、あの2人の女性の姿が心にカサカサと引っ掻き傷を残している。あの人達が誰かも解らないし、それに、私の気のせいかも分からない。

 だからルークに言うべきか言わざるべきか…振り子のように行ったり来たりしている。あの2人のことを疑うには何の確証もない。

 

 …ただあるのは、女の勘ね。

 

 


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