あなたが好き
「兄様に、大臣が領地に向かった。って聞いたの。そしたら居ても立っても居られなくなって…。もしも…また…何かあったら…」
プリシラは呟きながら俯き、モジモジと膝を撫でている。
そんなのせつなくて、思いっきり可愛いくなってしまうじゃないか。
「プリシラ…」
プリシラの頬を両手で優しく包むと彼女は顔を上げて口元だけで笑う。
銀色の鈴の音色ような月の光が、ホテルの窓から差し込んでいて、不安気に自分を見上げるプリシラの潤んだスミレ色の瞳。
(…プリシラ。それで…怪盗プリティって何?)
本人には、今は聞けないな…。
せっかく…いい感じなんだし、とんでもない答えが返ってくる可能性もある。
もう少し…このままで。
夜遅くになって、ほろ酔い加減のアレン達がルークの部屋のドアを開けた。
「ただいま…」
ルークはテーブルで書類を読んでいた。
プリシラはルークのベッドで眠っている。…のを見た兄のジュリアンが慌てて言った。
「嫁にあげます。とは言ったけど、婚約もまだなのに…嫁入り前に、なんて事を…」
ルークも慌てながら、
「違います。誤解、誤解です。食事をした後に疲れてたのでしょうね、眠ってしまったんです。それよりも2つほど聞いていいですか?」
ジュリアンは、ルークの紳士然な行動に安心したのか、ホッとした表情になってから、
「なんなりと、お聞き下さい」
「プリシラが今ここに来ているという事は、お渡しした舞台のチケットを、彼女は喜んでいなかったという事ですか?あと、怪盗プリティとは…なんですか?あんなに生き生きと怪盗プリティとか言われると…(恐ろしくて)」
ジュリアンは、優しく微笑んだ。
「プリシラは観劇をとても楽しみにしてます。だから、それまでに王都に戻る予定です。それと、怪盗姫はプリシラのお気に入りの本です。嫌な予感しかない題名ですけどね」
ベッドですやすや眠るプリシラは、自分がプレゼントしたチケットを喜んでいた。それを聞いて、喜んで笑っている場面を想像して、ルークの心臓がジンワリと温かくなってきて、少し照れくさい。
「ルークの顔が赤い」
「アレンの気のせいだ」
その場にいた全員が、プリシラを起こさないように小声で笑った。
朝になって、プリシラは思い切りよく目が覚めた。
目に入るのは見慣れない部屋と、窓の外には見慣れない街並みが広がる。
疲れからなのか、少し頭がボンヤリするけど、まぁいい感じだな。
ゆっくりとベッドから下りる。
ルークは部屋にいなかった。