あなたが好き
街!街!
久しぶりの買い物は凄く楽しい。
…例え、護衛にガッチリ囲まれていて、隣を歩く兄様が、すれ違うご婦人達にハートマークのガン見されまくっていても…。
いいや、兄様も愛想振ってるけど…(犬だな)
その兄様の目が、通りを駆け抜ける馬車と馬に乗った兵士達を目で追っていた。
「兄様…?」
真剣に立ち尽くす兄様の横顔は…、妹のひいき目で見ても素敵だ。頼むから、ずっとそうしていてほしい。
「…で、何を見ているの?」
よく見れば、兵士達の着ている制服はルーク様付きの騎士団の物だ。
ルークと一緒に、騎士団の練習を見学に行ったことがあるから覚えている。
「不穏だな、あれ…騎士団だろう?」
…だけど、
「…どこかの警備じゃないの?」
…だけど。
「気になるな…」
…うん。
平穏な時間の流れの街の中で、私と兄様だけが立ち止まってしまっていた。
「兄様…?」
兄様は、風を見るように空を見上げたあとに、私の手を取り歩き出す。
思い出した…。
兄様は小さな時から、私の手を取って前を進んでくれた。
それは、いつも心強くて…いつも凄く心地良かった。
心の中の、ムズムズする優しい記憶…。
遠くて、懐かしい夢のような思い出。
このあとに、私たちは街の中で疲れきるまで、たっぷりと遊んだ。
夕方になって、さぁ、帰宅となった時、兄様は情報収集のためにお城に行ってしまった。(はぁ…。)
夜のエドモンド邸。
「可愛い妹を置いて…まったく兄様は、野次馬なんだからさ。私なんて、久しぶりに歩き回って足が棒なのに…疲れてないの?」
城から帰って、兄様は食事をしていた。
「プリシラ、レディが鍋に足を突っ込んでいたらダメでしょう?お行儀が悪いよ。ルーク王子にバレたら嫁に行けなくなるぞ」
確かに、私は鍋で足湯している。
「…で、どうだったの?」
兄様が食事中の手を止めた。
「詳しくは教えてくれなかったけど、…領地に帰ったオズワルド大臣を追って行ったみたいだ」
(…そんな事を、教えてくれるのは…)
「メイドの子に聞いたのね?」
「おっ、勘がいいね」
(誰にでも、わかるわ!)
「でも、大臣が領地に行くのって普通よね?どうしてルーク様付きの騎士団が…」
(…!)
「もしかして、ルーク様に何かあったの?」
兄様は少し目を伏せた。
「それは、分からない。城の子たちも、そこまでは知らないと言っていた」
騎士団が動くなんて、何かあったに違いない。もしかして、ジャック?裏切ったの…?
シャンデリアの灯りが、兄様の顔に優しい影を揺らしている。
胸がザワつく。
ルーク様に最後に会ったのはいつだった?