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96話 苦難と苦悩

 場面は変わり、エリギウス大陸帝都ディオローン。王城のとある一室で二人の人物が対面していた。


 その人物とは、先程黝簾(ゆうれん)の空域に奇襲を行った第八騎士師団〈幻幽の尾〉師団長、アルディリア=シャルマであり、もう一人は第一騎士師団〈閃皇(せんおう)の牙〉師団長、レオ=アークライトであった。


 アルディリアは、レオにとあるものを手渡す。それは怨気が封印され、深い漆黒に染まる浄化の宝珠であり、レオはそれを受け取ると笑顔を浮かべる。


「ご苦労様アルディリア、いつもありがとう」


 そんなレオを、アルディリアは冷たい瞳で睨み付けた。


「約束、忘れていないでしょうね?」


「勿論だよ、これで君が献上した封怨済みの浄化の宝珠は九十五個。約束の百個まであと少しだね、でも期限もあと二カ月くらいしかないけど大丈夫?」


「……残りの、封怨された浄化の宝珠、手に入れる算段は既に付いてるわ」


 レオはそれを聞き、何かを察したように不敵に笑んだ。


「攫って来た“玉鋼(たまはがね)の子”と“大聖霊”。キーワードはこの二つってところかな?」


 レオの何かを見透かしたような言葉に、常に冷静を保っていたアルディリアは表情を変えた。


「そ、そんなびっくりした顔しないでよ、君のやり方にとやかく言うつもりは無いし好きにやればいいからさ」


 しかしレオ必死に取り繕うように、焦って続けた。そんなレオの言葉と態度に、怪訝そうな表情を浮かべるアルディリア。


「そこまで分かっていながら私に一任しようとするなんて……あなたは一体何が目的なの? その浄化の宝珠を使って何をしようというの?」


 すると、レオは先程までの砕けた表情を消失させ、別人のように冷淡な表情を浮かべた。それを見たアルディリアに悪寒が走り、鳥肌が立つ。


「君は醒玄竜(せいげんりゅう)教団からのただの雇われ師団長、余計な詮索はしない方がいい」


 深く、暗く、どこまでも底を見せない深淵の瞳。アルディリアはその眼差しの前に指一本動かす事が出来ず、冷たい汗がただ頬を伝った。


 するとレオはすぐに、先程までのような砕けた表情になり、柔らかな声で続けた。


「――なんてね」


「…………」


「とにかく、残り二カ月であと五個の封怨済みの浄化の宝珠を献上する事が出来れば、約束通りエリギウス帝国唯一の“解術師(げじゅつし)”に君を合わせてあげるから」


「……ええ」


アルディリアは静かに頷くと、扉を開け部屋から立ち去った。





 場面は更に変わり、ツァリス島〈寄集(よせあつめ)隻翼(せきよく)〉本拠地に帰陣し、格納庫へとそれぞれのソードを降り立たせるソラ、フリューゲル、エイラリィ。


 あれからソラは、フリューゲルやエイラリィに話しかけられてもどこか塞ぎ込んだ様子だった。


 突如一騎討ちに近い状態で師団長であるアルディリアと交戦し、撤退せざるを得ない状況に陥った。


 自分を過信していた訳ではない、それでも少しずつ力を付け、もうすぐオルタナに届く事が出来るかもしれない、届く筈だと信じていたソラにとって今回の失態は、オルタナと……そしてその先に居るかもしれないエルとの距離があまりにも遠いと、そう思わされてしまうものだった。


 そして、ソラが一人俯きながら操刃室から降りると、腕を組みながら渋い顔をしたシオンが近付いて来る。


「おいソラ、てめえまーた俺のカレトヴルッフ傷付けやがって。しかもおめえ思念操作式飛翔氷刃(ワグテイル)に全然対応出来てなかったじゃねえか、いきなり斬撃かますわ射撃は当たらないわで駄目駄目もいいとこだ」


 ソラの戦いを伝令室で見ていただろうシオンの、溜息混じりの説教を無視するように脇を黙って通りすぎるソラ。


「おい、聞いてんのかソラ?」


 シオンはそんなソラの肩を掴んで言う。すると、ソラはその手を振り払った。


「……うるさい」


「あん?」


「わかってんだよ!」


 直後ソラは、シオンに背を向けたまま憤りを顕わにするように叫ぶ。


「カレトヴルッフを使いこなせてない事も、思念操作式飛翔氷刃(ワグテイル)に対応出来なかった事も、師団長に全然敵わなかった事も全部……俺が一番分かってる!」


 ソラの悲痛な叫びが格納庫に響き渡り、ソラとシオンとのやり取りをフリューゲルとエイラリィは黙って見守っていた。


 するとソラは、込み上げる悔しさを押さえるように拳を握り締めながら格納庫を後にするのだった。


「……んだよ、そんなにキレなくてもいいじゃねえか」


 そして後頭部を掻きながら気まずそうに呟くシオン。そんなシオンにフリューゲルとエイラリィが声をかける。


「まあ今のは傷口に塩塗った爺さんがわりぃんじゃねえの?」


「わかってあげてくださいシオンさん。ソラさんは普段あんなですが、ソラさんはソラさんなりにずっと苦悩し続けているんです。選ばれざる者として、それでも譲れない物がある……そうやって必死に戦ってるんです」


 そんな二人の苦言を受け、シオンはバツが悪そうに、一人腕を組みながら眉間に皺を寄せ、天井を見つめていた。





 それから、ソラ、フリューゲル、エイラリィの三人は聖堂にて黝簾(ゆうれん)の空域での戦況報告をヨクハに行った。そこにはデゼルやカナフ、プルームやシーベット達の姿もあり〈寄集(よせあつめ)隻翼(せきよく)〉のほぼ全員が揃っていた。またそんな中でパルナは、一人俯きソラ達と目を合わせようとしなかった。


「そうか、ご苦労じゃったな」


 ヨクハは淡々とした様子で三人を労うような言葉を投げかけた後、続ける。


 確かに玉鋼(たまはがね)の子達を奪還すると言っても、アルテーリエの言う通り今ラージル島に攻め込むのは無謀が過ぎる……そう言いながらヨクハは、深く考察するように押し黙った。そして呟くように再度続けた。


「ラージル島の砂塵が止むのが一ヶ月後、攻め込むにはそこを狙うしかないが、敵がそれを予測してない筈が無い。問題は今回の奇襲は本当に玉鋼の子が目的だったのかという所にある」


 ヨクハの考察を聞き「誘い……という事か」と、カナフが察したように言う。


「うむ、その可能性が高い」


「だが、何故わざわざラージル島へ誘い出す必要がある? 単純に罠を用い〈因果の鮮血〉の戦力を削るのが目的なのか、それとも……」


「それは分からん、だが誘いが目的であるとするならば少なくとも玉鋼の子達はエリギウス大陸には送られず、紅玉の空域のどこかに安置されている可能性が高い」


 その言葉を聞き、デゼルが表情を明るくさせた。


「じゃあ〈幻幽の尾〉を倒す事が出来れば、攫われた子供達を取り返せるって事だよね?」


「あくまで今語った仮定が正しければの話じゃがな……いずれにせよもう少しアルディリアという人物について知る必要があるな。シーベット」


 ヨクハに名前を呼ばれ、シーベットが前に出た。


 そしてヨクハに命じられる。先行してディナイン群島へと潜入し、醒玄竜(せいげんりゅう)教団員としてのアルディリアと、〈幻幽の尾〉師団長としてのアルディリア、出来る限りの情報を集めて来て欲しいと。


「御意!」


「お任せを!」


 対し、シーベットとシバは意気揚々と返答すると、素早くその場から姿を消し、与えられた任務へと向かうのだった。


「一ヶ月後の紅玉の空域攻略戦の方針が固まり次第皆に報せる。今回はこれにて解散じゃ」


 ヨクハが団員達に号令すると、それぞれが歩みだし散り散りになる。しかし、ソラだけはその場から動かず一人佇んでいた。


「さっきから辛気臭い顔してどうかしたのかソラ?」


 そんなソラを見て怪訝そうに声をかけるヨクハ。そしてそんな異変に気付いた他の団員達も足を止め、二人のやり取りを見守った。するとソラがゆっくりと口を開いて答える。


「……なんで何も言わないんだよ?」


 対し、ヨクハは眉をひそめ首を傾げた。

96話まで読んでいただき本当にありがとうございます。


ブックマークしてくれた方、評価してくれた方、いつもいいねしてくれてる方、本当に本当に救われております。


誤字報告も大変助かります。これからも宜しくお願いします。

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