93話 開花の兆し
場面は変わり、アルテーリエの指示によりリンベルン島付近で単騎配置していたフリューゲルは、竜殲術〈天眼〉を発動させながら狙撃式刃力砲を左右両方展開させ、敵部隊大将……つまり師団長騎であるフィランギに照準を合わせていた。
更に、パンツァーステッチャーが展開する左右の砲身の中心に、収束された光の球体が出現しており、稲妻が走っている。
「射線が通った!」
そしてタルワールの部隊が散開した事により、既に発射準備の完了しているフリューゲルに好機が訪れた。
「この一撃で射殺す!」
フリューゲルの切り札である刃力共鳴式聖霊術砲、共鳴狙撃式刃力砲。集束された光の球体から雷鳴と共に、極大の稲妻の矢が放たれ、フィランギへと襲い掛かる。
しかしフリューゲルの〈天眼〉による意識の死角を突いた超長距離狙撃を、フィランギは最小限の動きで難なく躱してみせた。
「んだと!」
稲妻が雲を穿ち、彼方へと消えていく。刃力の大半を注ぎ込んだ一撃が掠りもしなかった事で、フリューゲルは驚嘆と同時に歯噛みした。
『ふん、師団長クラス相手にそう上手くはいかんか。フリューゲル、お前は狙撃騎士部隊と合流して通常の狙撃にあたれ』
「……了解」
アルテーリエの指示で、フリューゲルは残った刃力で通常狙撃を行うべく部隊との合流を急ぐ。
一方、フリューゲルによる超長距離狙撃が失敗に終わり、アルテーリエは更に次の手に移った。
「ソラ、敵が散開している今が好機だ、白刃騎士部隊と共に突撃して白兵戦に持ち込み、お前が敵の師団長を討ち取れ」
アルテーリエは白刃騎士部隊の中に居るソラに、フィランギを討ち取るよう指示を出した。
この戦力差であれば無理に大将を討たなくても敵の撤退は時間の問題である。しかし、ここで師団長の一人を討ち取る事が出来ればエリギウス帝国の戦力を大きく削る事に繋がる。故にアルテーリエは、少数を率いて師団長自らが領内に姿を現している今こそ好機であると捉えていた。
また、射撃、狙撃の雨の中、一発の被弾も受けていないフィランギの操刃者はかなりの先読み能力を持っている騎士であり、更に雲属性のフィランギに対しては、光属性に対し雷属性は相性が悪く、刃力弓と狙撃式刃力弓による射撃と狙撃では致命傷を与えられない可能性があった為、白兵戦での撃破を目論んだのだ。
『えっ師団長を? 何で俺が?』
しかし突然の無茶振りに思わずタメ口で尋ねてしまうソラに、アルテーリエは毅然と返す。
「お前は先の戦いで聖衣騎士と一騎討ちの末、退けているだろ」
『いやまあ、あの時は無我夢中で』
「なら今もそうしろ、行け」
『……強引で無茶な所がヨクハ団長と似てるなあ』
ソラは半ば諦めたといった様子で呟きながら、白刃騎士と共にフィランギに向かって突撃を開始した。
※
場面は変わり、カレトヴルッフの操刃室の中で、ツァリス島本拠地に居るパルナから伝声を受けるソラ。
第八騎士師団〈幻幽の尾〉はディナイン群島のある紅玉の空域を守護する騎士師団。師団長の名前はアルディリア=シャルマ。五年程前に第八師団の師団長に就任した騎士である。しかしアルディリアという人物は今まで一切表に出てきていことから詳細は謎、フィランギの戦闘データも今の所無しとの事であった。
「げっ、つまり事前情報無しってこと?」
『残念だけど……ただフィランギは雲属性でさっきまでの戦闘を見る限りバリバリの射術騎士ね。懐に入ってしまいさえすれば勝機はあるけど、あんたのカレトヴルッフも〈因果の鮮血〉のパンツァーステッチャーも劣位属性、被弾したら甚大な損傷を受けるから気を付けてね』
パルナの忠告を受けソラは生唾を飲み込んだ。しかし、頭を振って恐怖を振り払うと覚悟を決めたように目付きを鋭くさせた。
――〈不壊の殻〉のカチュアとも、〈灼黎の眼〉のオルタナとも、何だかんだ聖衣騎士達と戦って生き残って来た……やれる筈だ!
ソラはフィランギへと目標を定め距離を詰めようと試みる。しかし、フィランギの周囲には未だ十器程のタルワールが道を塞いでおり、その排除が優先だと理解する。
直後、ソラは十騎程のタルワールの中心に向けて炎装式刃力砲と、先程新たに装備してもらった雷電加速式投射砲の砲身を両方同時に向けた。
「行け!」
炎装式刃力砲の砲身からは炎を纏った光の奔流が放出され、雷電加速式投射砲の砲身からは電磁で加速された超速の弾丸が発射される。
刃力と実弾、それぞれの性質を持った攻撃を同時に放つ事により、抗刃力結界と耐実体結界、どちらの結界を装備しているソードであっても牽制をする事が出来る。ソラが雷電加速式投射砲を実弾型の刃力核直結式聖霊騎装であると聞いて何かを閃いたのは正にこういった状況を想定しての事であった。
そして、狙いのタルワールはその攻撃を散開して回避。しかし、その攻撃はあくまでも牽制である。
「ハアアアアッ!」
ソラは、先程の攻撃に対し、回避行動を取った数騎のタルワールの進行方向にカレトヴルッフを先回りさせると、既に抜刀させ刀身を形成させていた刃力剣を一振り、二振りと奔らせた。
その斬撃は抗刃力結界を発動させている二騎のタルワールの胴をそれぞれ割り、動力部を切断。空中で爆散する二騎のタルワール。
更に直後、回避行動を取ったタルワールの内数騎が、その手に持つ炎装型刃力弓から炎を纏った光矢を連続で発射させ、カレトヴルッフを狙い撃つ。
対し、ソラはカレトヴルッフを急旋回させ、光矢を回避しながら今度は耐実体結界を発動させているタルワールの内一騎へと狙いを定め、一気に間合いを詰めた。そして、左前腕部に装着された盾の尖端部分を結界へと突き刺すと、先端部分が左右に開放され、同時に結界が砕け散る。それはカレトヴルッフに元々備え付けられていた盾付属型聖霊騎装の一つ、砕結界式穿開盾の効果である。
結界を破壊され、無防備になったタルワールは咄嗟に刃力剣を抜く。しかし、ソラの間合いの中で一手遅れるという事は即ち――
「遅い!」
ソラのカレトヴルッフは袈裟斬りで、タルワールの肩から胴までを両断し、動力部を破壊されたタルワールは爆散した。
更にソラは、今の一撃の後、後ずさるように距離を取ろうとしたタルワールへと視線を向ける。
――俺の斬撃を警戒してる……だけど距離はまだ近い、今なら当たる!
ソラは再度、炎装式刃力砲の砲身を展開させ、耐実体結界を発動させている一騎のタルワールへと炎を纏った光の奔流を発射。耐実体結界では刃力による攻撃を防ぐ事は出来ず、斬撃を警戒していた騎士は意識の隙間を突かれた事により回避が間に合わず、タルワールは直撃を受けて爆散した。
――やれる、乱戦の中でも戦えてる。
ソラが乱戦の中で撃墜させた敵騎数は四。敵は一般の騎士とはいえ、覚醒騎士と非覚醒騎士の差を物ともせず、ソラが明らかに圧倒していた。久々に感じる確かな手応えと成長の兆しに、ソラは一人操刃柄を強く握り締めていた。
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