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92話 第八騎士師団〈幻幽の尾〉

 数分後、ソラ達は王城の城門を通り、格納庫へと直行する。


「来たか」


 そこには既に〈因果の鮮血〉の騎士達が集結し、その中には騎士制服姿になったアルテーリエの姿もあった。


「エリギウス帝国の奴らが攻めて来てるって聞いて、俺達急いで戻って来たんですよ」


「それにしても、(むらさき)の空域や尖晶(せんしょう)の空域を通過して、この王都のある黝簾(ゆうれん)の空域まで一気に侵入してくるとは」


「……以前うちがやったみてえに、耐探知結界(シャドウスフィア)を使って奇襲してきやがったのか?」


 肩で息を切らしながらアルテーリエに声をかけるソラ、エイラリィ。考察しながら呟くフリューゲル。


 対しアルテーリエは告げる。抗探知結界(シャドウスフィア)を装備しての奇襲であれば探知器には映し出されない筈だが、現在は映し出されている。つまりどうやったかは不明だが探知器を擦り抜ける何らかの方法を持っている。それによりこの黝簾(ゆうれん)の空域までの侵入を許してしまったのだと。


 言いながらアルテーリエは拳を固く握り締めた。そして、その場に居る二百名近い騎士達に向かって叫んだ。


「全騎士に告ぐ。現在確認されている敵の数は約五十。少数とはいえ、守衛騎士が突破されるのは時間の問題。だが、奴らをこの王都に近付ける訳にはいかん、命に代えても食い止めろ、いいな!」


 アルテーリエの激に鼓舞され、〈因果の鮮血〉の騎士達はパンツァーステッチャーに搭乗し、開放された天井から次々と飛び立ち出陣した。


 更にアルテーリエがソラ達に向かって言う。


「万が一にでもこの王都を落とされたら終わりだ。お前達にも戦ってもらうぞ、ヨクハちゃんには既に了承済みだ」


「勿論です、任せてください」


 すると、それに対し勇ましく返すソラ。


「ソラさん、珍しく強気ですね」


「今回はこっちの方が戦力的に上だから安心してんじゃねえのか?」


「……バレてる」


 しかし、エイラリィとフリューゲルに図星を突かれ、たじろぐソラ。そんなやり取りを見てアルテーリエは大きく嘆息した。


「現段階でいくら戦力が上と言っても、相手は突然探知器上に出現したんだ。まだどれだけの戦力を隠しているのかは分からん、決して油断するな」


 アルテーリエはそう忠告すると、格納庫の最奥中央に立つ真紅のソードに搭乗する。


 赤を基調としたカラーリングに、兜飾り(クレスト)一角馬(ユニコーン)のような一本角を額に着け、背部には円錐状の鋭く細い刀身の形状をした推進刃(すいしんじん)が四本。刃力核直結式聖霊騎装はおろか刃力剣クスィフ・ブレイドも装備していないそのソードの騎体名はミームング。アルテーリエ専用の宝剣である。


「アルテーリエ=ベルク=メルグレイン――ミームング、出陣するぞ!」


 アルテーリエの操刃するミームングがメルグレインの空に飛び立ち、続いてソラ達もそれぞれがソードに搭乗する。


 すると、老齢の鍛冶かぬちがカレトヴルッフの中のソラに向かって叫ぶ。


「おーい、雷電加速式投射砲(レールカノン)の装備はもう完了してるからな」


「あ、本当だ……ありがとうございます、これで百人力ですよ」


 ソラは左腰部に接続された新た刃力核直結式聖霊騎装、雷電加速式投射砲(レールカノン)を確認すると、出陣の為飛翔を開始する。そしてフリューゲルとエイラリィもまた。


「ソラ=レイウィング、カレトヴルッフ、出陣する」


「フリューゲル=シュトルヒ、パンツァーステッチャー、出るぜ」


「エイラリィ=クロフォード、カーテナ、出陣します」


 戦場へと飛び立つ〈因果の鮮血〉の騎士と、ソラ達。黝簾(ゆうれん)の空域での戦闘が始まろうとしていた。





 一方、黝簾(ゆうれん)の空域では〈幻幽の尾〉の奇襲部隊と、それを発見し迎撃を開始した〈因果の鮮血〉の守衛騎士部隊との戦闘がいち早く開始されていた。


 交差する剣と矢、戦火の炎が群青の空を赤く染め始めていた。


 現在確認されている〈幻幽の尾〉のソード数は五十、対し守衛騎士側のソード数は三十。数ではやや劣勢の〈因果の鮮血〉側。


 そして〈幻幽の尾〉が有するソードは炎の聖霊石を核にするタルワールで、ディナイン群島で主力とされる量産剣。また、狙撃騎士であるカナフの愛刀でもあるタルワールは本来、炎属性の特性もあり白兵戦を得意としている。


 対し守衛騎士側が有するソードは、メルグレイン群島で主力とされる量産剣パンツァーステッチャー。雷の聖霊石を核としており、狙撃戦及び射撃戦を得意としている。


 炎と雷では属性相性の優劣は無く、騎体性能差も殆ど無い。勝敗を分けるのは単純な数と、どの距離で戦えるかである。


 しかし、現段階ではいずれも〈幻幽の尾〉が優位な位置にいた。


 遠距離で戦いたい守衛騎士側はパンツァーステッチャーに装備された狙撃式刃力弓(クスィフ・スナイプアロー)により弾幕を張るも、〈幻幽の尾〉のタルワールにそれらの弾幕を軽々と掻い潜られ、白兵戦へと持ち込む事を許していた。


 それは〈幻幽の尾〉の奇襲部隊の最後尾から援護射撃を行うある一騎のソードが起因していた。


 灰を基調としたカラーリングに、軽装な鎧装甲が特徴の軽量騎体。兜飾り(クレスト)は額に埋め込まれた宝玉、背部には湾曲した幅広の刀身の形状をした推進刃(すいしんじん)が四本。そこから放出される刃力が形成する騎装衣は金色である。また、左胸には竜の尾を抽象的に描いた紋章が刻まれている。


 そのソードの名はフィランギ。第八騎士師団〈幻幽の尾〉師団長が操刃する宝剣であった。


 フィランギがその手に持つ携帯型聖霊騎装は思念誘導式刃力弓(クスィフ・ディレクションアロー)。波動の特性を持つ光を模倣させた闇の聖霊の意思と、思念誘導の特性を持つ雲の聖霊の意思を組み合わせた聖霊騎装で、放った光矢を思念誘導により軌道変化させ、相手の不意を突くトリッキーな攻撃を売りとしている。


 フィランギは奇襲部隊の最後方から、思念誘導式刃力弓(クスィフ・ディレクションアロー)を駆使し、守衛騎士達の死角から光矢を的確に直撃させ、パンツァーステッチャーを次々と撃墜させていく。更には陣系を大きく崩す事に成功していた。


 それにより守衛騎士達のパンツァーステッチャーが張る弾幕は所々弱まり、奇襲部隊のタルワールによる猛攻を受けてしまっていたのだ。タルワールの得意距離まで接近を許してしまえば守衛騎士側に勝ち目は無い。もはや、守衛騎士部隊の壊滅は時間の問題であった。



 その時、守衛騎士側の後方から無数の光矢が飛来。奇襲部隊のタルワールに襲い掛かり、奇襲部隊のタルワールは後退を余技無くされた。アルテーリエ率いるメルグレイン王国の本隊登場であった。


 二百騎近いパンツアーステッチャーの中央にアルテーリエのミームングが浮遊する。


「よくぞ凌いだ、お前達は一旦下がれ」


『はっ!』


 アルテーリエの指示を受け、残り十数騎となった守衛騎士達は部隊の最後尾へと撤退する。


「エイラリィは損傷した守衛騎士達の騎体修復を頼む」


『了解しました』


 エイラリィはアルテーリエの指示で、損傷を受けている守衛騎士達が操刃するパンツァーステッチャーの修復にあたる。


 エイラリィが竜殲術(りゅうせんじゅつ)癒掌(いやしのて)〉を発動させると、エイラリィとカーテナの額に剣の紋章が輝き、両掌部から発される淡く青い光がパンツァーステッチャーの損傷部を修復していく。


「この程度の戦力で、王都に土足で踏み入ろうとするとは良い度胸だ――全騎、陣系!」


 アルテーリエの指揮でパンツァーステッチャーが陣系を組む。白刃騎士部隊が最前衛に位置を取り、射術騎士部隊が中衛上方に一列になって位置を取り、狙撃騎士部隊が最後衛下方に一列になって位置を取る。それは誇り高き雷(シュトルツブリッツ)と呼ばれる、メルグレイン王国の騎士部隊の空中戦術における基本陣系であった。


 アルテーリエのミームングが〈幻幽の尾〉の奇襲部隊に五指を向ける。


「殲滅しろ!」


 そしてアルテーリエの合図で、狙撃騎士部隊と射術騎士部隊が一斉射撃を開始し、狙撃式刃力弓(クスィフ・スナイプアロー)刃力弓(クスィフ・ドライヴアロー)から放たれた光矢の雨が降り注ぐ。


 次の瞬間、奇襲部隊のタルワールの半数が前に出て、白い光の球体に包まれた。それは抗刃力結界(イノセントスフィア)、刃力による攻撃を防ぐ効果があり、パンツァーステッチャーが放つ光矢を尽く遮った。


抗刃力結界(イノセントスフィア)を使えるという事はやはり奴らは抗探知結界(シャドウスフィア)を装備していないという事か」


 ソードが装備する事の出来る結界系の聖霊騎装は一種類であることから、奇襲部隊が探知器をすり抜け黝簾(ゆうれん)の空域まで侵入して来たのは別の方法であると確信するアルテーリエ。しかし、それが何であるのかは解らずにいた。とは言え、今は目の前の敵を排除する事が最優先。アルテーリエは次なる一手を打つ。


「射術騎士部隊、雷電加速式投射砲(レールカノン)発射用意!」


 アルテーリエの指示で射術騎士部隊が一斉に、腰部に接続され背面に収納された砲身を展開する。それは雷の聖霊の意思を利用する実弾型の刃力核直結式聖霊騎装である。そして、砲身に稲妻が走った直後、砲身内部で電磁加速された超速の弾丸が奇襲部隊のタルワールへと次々と発射された。


 だが、それを読んでいのだろう、奇襲部隊のタルワールの半数は既に前衛と後衛が入れ替わり、前衛のタルワールは黄色(おうしょく)に輝く光の球体に包まれていた。それは実弾や実体化された刃等の攻撃を防ぐ耐実体結界(アブソリュートスフィア)。それにより、雷電加速式投射砲(レールカノン)から発射された弾丸が次々と弾かれていく。


「やるな、だがこれで終わらせる。狙撃騎士部隊、狙撃式刃力砲(クスィフ・ペネトレイトカノン)用意!」


 その指示を受け、狙撃騎士部隊もまた砲身を展開させる。


 抗探知結界(シャドウスフィア)耐実体結界(アブソリュートスフィア)を駆使し的確に攻撃を防ぐ〈幻幽の尾〉の奇襲部隊。それに対し、実弾攻撃の雷電加速式投射砲(レールカノン)に加え刃力攻撃の狙撃式刃力砲(クスィフ・ペネトレイトカノン)、両性質の刃力核直結式聖霊騎装を同時に放つ事により、結界の種類がどちらであっても有効な攻撃となる。


 すると、奇襲部隊のタルワール達は一斉射撃を回避すべく散開し、上下左右から接近を試みた。

92話まで読んでいただき本当にありがとうございます。もし作品を少しでも気に入ってもらえたり続きを読みたいと思ってもらえたら


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どうぞ宜しくお願い致します。


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