87話 論功行賞
こうして、期せずして論功行賞が始まり、ソラとフリューゲルは言われるがまま、〈因果の鮮血〉の騎士達と共にアルテーリエの前に並ばされるのであった。
「それではこれより、塵の空域攻略戦における論功行賞を執り行う」
アルテーリエの言葉に、全騎士が腰の鞘から剣を抜き、剣礼を行うと、その姿勢のまま待機し、ソラ達もそれを見て同じように剣礼を行ったまま待機した。そして武功を上げた者の名が呼ばれる。
「第一戦功、ウィン=クレイン、そして――フリューゲル=シュトルヒ」
予期していなかった自分の名が呼ばれた事で、フリューゲルは驚いたように目を丸くした。
「お、俺が……」
アルテーリエが述べる。この二名は、一見不死身とも思える〈連理の鱗〉師団長スクアーロ=オルドリーニの能力を看破し、討ち取る事に成功した。そしてそれにより塵の空域攻略戦の勝利を決定的なものにしたその功績は偉大である。よって第一級相当の戦功を与えるものとする。
「フリューゲル=シュトルヒ前へ」
アルテーリエの側近に促され、フリューゲルは剣を納めると、アルテーリエの前まで歩き、そこで片膝を付いた。
「大義であった。そなたには勲章として黄金の短剣と金貨百を授与し、そしてパンツァーステッチャー一騎を譲渡する」
「もしかして……あのパンツァーステッチャーを?」
「だから不問にしてやったんだぞ、ありがたく思え」
アルテーリエはそう言うと、黄金の短剣をフリューゲルに渡し、フリューゲルは片膝を付いたままそれを両手で受け取った。
そして元の場所へと戻り、再び剣礼の姿勢で待機する。すると横に居るソラがフリューゲルに耳打ちをした。
「いいなあ金貨百だって、何でも買えるじゃん」
「別にスクアーロは俺だけの力で討ち取った訳じゃねえ、この金だって全部騎士団の活動資金に充てるよ」
「え、マジで?」
「団長達にはたくさん迷惑かけちまったからな」
照れ臭そうにそっぽを向くフリューゲルに、ソラは目を潤ませた。
「あのフリューゲルがこんなに立派になって」
「お前は一体誰目線なんだよ!」
二人が私語をしていると、周囲の騎士がそれを窘めるように咳払いをしたため、二人はハッとして前を向き直すのだった。
「続いて第二戦功、ヨクハ=ホウリュウイン」
「ああ、やっぱりヨクハ団長か、順当だなあ」
アルテーリエが述べる。この者は〈寄集の隻翼〉及び〈因果の鮮血〉を包括的に指揮し、フォルセス島の拠点城塞の制圧に貢献した。更に〈連理の鱗〉副師団長にして恐るべき能力を持つ竜魔騎兵アイデクセ=フェルゼンシュタインを単騎で撃退したその功績は偉大である。よって第ニ級相当の戦功を与えるものとする。
それを聞き、ソラはアイデクセの事を思い出しながら悲しげな表情で一人俯くのだった。
「この者には勲章として白銀の短剣と、金貨五十を授与する」
――アイデ。
「最後に第三戦功――」
「――ソラ! おい、ソラ!」
「ん?」
ソラがアイデクセの事で考え込み惚けていると、フリューゲルがソラの名前を呼ぶ。
「何ぼーっとしてんだよ、名前呼ばれてんぞ!」
「はあ、何言ってんだよ、俺が呼ばれる訳ないだろ」
フリューゲルの指摘をソラが訝しんでいると、アルテーリエは続ける。
この者は、〈灼黎の眼〉に所属する特務遊撃騎士にして聖衣騎士、オルタナ=ティーバと一騎討ちを行い、撤退に追い込んだ。それにより攻略戦の勝利へ大きく貢献したその功績は偉大である。よって第三級相当の戦功を与えるものとする。
「ソラ=レイウィング前へ」
アルテーリエの側近から名を呼ばれ、ソラは初めて自分が第三戦功を上げていた事を理解した。
「え、俺!? うそ?」
「だから言ってんだろ!」
ソラはまだ信じられないと言った様子で、おぼつかない足取りのままアルテーリエの前まで歩くと、見よう見まねで片膝を付いた。
「大義であった。そなたには勲章として赤銅の短剣と金貨十を授与し、そして聖霊騎装を一つ譲渡する」
「え、聖霊騎装を?」
「何でもと言う訳にはいかんが、メルグレイン群島にあるものなら授けてやる。何か考えておくといい」
そしてソラはアルテーリエから赤銅の短剣を両手で受け取り、元の場所へと戻り剣礼の姿勢へとなる。
「これにて論功行賞を終了する」
※
こうして塵の空域攻略戦における論功行賞が終了し、王座の間にはアルテーリエと側近、近衛騎士達とソラ達三人だけが残った。
「結局俺達がここに寄越されたのはこういう事だったんだな、本当一瞬ひやっとしたぜ……ったく団長のやつ」
「まあそれは自業自得なんだから仕方ないだろ……そんなことより俺何の聖霊騎装貰おうかな」
戦功として授与される聖霊騎装の事を考え、目を輝かせるソラ。
すると、エイラリィがアルテーリエに声をかける。
「アルテーリエ様、そろそろ」
「そうだったな、それでは頼むとするか」
二人のやり取りを聞き、ソラは首を傾げた。
「そうだ、そういえばエイラリィちゃんがここに来た理由って……それにヨクハ団長とアルテーリエ様ってどういう関係なんですか?」
ソラが尋ねると、アルテーリエは黙って、自身が両手に着けている肘までを覆う純白の手袋を取り外す。
「アルテーリエ様!」
その行動を見て焦ったように取り乱すエイラリィ。
「え?」
晒されたあるものにその場が静まりかえる。アルテーリエの両手には自傷傷のような生々しい傷跡が無数に刻まれていたからだ。理由は解らないがその傷跡を見た近衛騎士達が俯いていた。
「さあアルテーリエ様、両手を」
エイラリィに促され、傷だらけの両手を差し出すアルテーリエ。直後、エイラリィの額に剣の紋章が輝き、エイラリィの掌から発せられる青白く淡い光にアルテーリエの両手が包まれた。
竜殲術〈癒掌〉、それは他者の傷を癒す能力であり、それによりアルテーリエの両手の傷は綺麗に消え去った。
「いつもすまんな」
「いえ、勿体ないお言葉です」
すると、アルテーリエはソラの顔を真っ直ぐに見た。
「先程の質問だが、エイラリィにはこうして定期的に私の傷を癒してもらっている。そしてヨクハちゃんは私に道を示し、心の傷を癒してくれた恩人でもあるんだ」
そうしてアルテーリエはかつてのヨクハとの思い出を語り出すのだった。
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