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86話 メルグレイン王国の国王

 それから、ソラとフリューゲルとエイラリィがツァリス島を出発してから一時間が経過し、三人は既にメルグレイン王国の領空内を飛んでいた。


 やがて一つの大きな島が三人の視界に入る。緑と青のコントラストが織りなす美しい島の中心には大きな湖があり、そこから至る所に繋がる河川、そして島の端から零れ落ちる水飛沫がいくつもの虹を造り出す。


 そして湖の中には一際巨大な城がそびえ立っており、その城には大きな橋が架かる。また、湖の周囲には青い屋根の建物が無数に建ち並んでいるのが分かった。


 その後、三人がソードの着陸を試みようとすると、島の端に〈因果の鮮血〉の騎士三名が待機しており、三振りのパンツァーステッチャーも片膝を付いていた。


 三人は騎士の誘導で島の端へとソードを降り立たせ、すぐに自身らも地へと降り立った。


 すると〈因果の鮮血〉の騎士がすぐに三人に声をかける。


「〈寄集(よせあつめ)隻翼(せきよく)〉の騎士ですね、話は聞いています。どうぞこちらへ、付いて来てください」


 騎士はそう言うとパンツァーステッチャーに乗り込み、騎体を起動させ、飛び立たせた。


 それを見てソラ達三人も再びソードに搭乗し、騎体を飛び立たせ、〈因果の鮮血〉のパンツァーステッチャーに追従する。


 島の上を飛翔しながらの街並みもまた違った美しさがあり、島の町には無数の運河が通っていて、石造りの小さな橋が運河の上にいくつも渡されており、その下を小舟が行き交う。


 水の群島メルグレインの王都に相応しい幻想的な街並みであった。


「いいなあ、あの小さな店とか行ってみたいなあ、ほらあの店とか何売ってんだろ、そういえばメルグレインの名物ってなんだろうな」


『あのなあ、観光に来たんじゃねえんだぞ』


 美しい街並みを見て静かにはしゃぐソラに思わず苦言を呈するフリューゲル。


 そうこうしている内に、湖の中心にそびえ立つ王城の上で制止するパンツァーステッチャー。すると、王城の格納庫であろう部分が開放され、パンツァーステッチャーと共にソラ達もソードを格納庫へと降り立たせる。


 ツァリス島本拠地のものとは比べ物にならない程広大な格納庫の中には、ニ百振り以上のパンツァーステッチャーが並び、その中にソラ達は自分達のソードを待機させた。


 その後、〈因果の鮮血〉の騎士に案内され、三人は格納庫を出て、長い廊下をいくつも渡る。


 そして遂に見上げる程の両開きの扉の前で立ち止まった。大きな音を立てて開かれる扉、その先には広大な空間が広がり無数の騎士達が並んでいた。


 そこは王座の間、床には赤い絨毯が引かれ、更にその先の正面には絢爛な装飾が施された椅子が置かれていた。


 更に、そこには真紅のドレスを身に纏い、装飾が施されたティアラを身に着ける人物が座っている。


「私がメルグレイン王国国王、アルテーリエ=ベルク=メルグレインです。〈寄集(よせあつめ)隻翼(せきよく)〉の方々、遠路はるばるご足労いただき、ありがたく存じ上げます」


 荘厳な雰囲気を醸し出しながら物腰柔らかに話し出す、王座に座るとある人物に目を向けるソラとフリューゲル。その人物こそがメルグレイン王国の国王、アルテーリエ=ベルク=メルグレインであった。


 長い絨毯を歩き、アルテーリエの目前まで進んだところで立ち止まらされる三人。 


 ――女の子?


 そしてアルテーリエに近付いたところでソラは気付く、水色の大きな瞳と、縦ロールにされた藍色髪の二つ結いが特徴の、十台半ば程の美しい少女であるという事実に。


「そんなに意外ですか?」


「あ、いや……その」


 心を見透かされた事でソラは動揺したように目を反らした。

五年前、当時〈因果の鮮血〉の副師団長であったメルグレイン王国国王が統一戦争にて戦死し、その後王妃が病に倒れたことで、唯一王位継承権を持つアルテーリエが若干十二歳という若さでメルグレイン王国の国王に即位していたのだ。


 すると、フリューゲルは片膝を付き平伏すと、口を開く。


「此度は私の犯した不始末のため、このような場を設けさせてしまい謝意の念しかございません。どのような罰でも甘んじて受ける所存にございます」


 そんなフリューゲルを見て、ソラも真似るように片膝を付いて平伏すと、フリューゲルにそっと耳打ちをした。


「フリューゲルお前、そんなちゃんとした感じで喋れたんだな」


「うるせえ茶化すんじゃねえ、今そんな場合じゃねえんだよ」


 するとアルテーリエは、ゆっくりと王座から立ち上がり、柔らかな表情を浮かべながらフリューゲルの元に歩み寄る。そしてフリューゲルの肩にそっと手を置いて言った。


「いえ、もうそれは過ぎた事ですので――」


 しかし次の瞬間、柔らかな表情のアルテーリエの表情が突如豹変し真顔になる。


「――なんて言うとでも思っているのか?」


「「え?」」


 更にアルテーリエはフリューゲルとソラの頭を鷲掴みし、上下に激しく揺すり出した。


「というか誰が勝手に喋っていいと言った? さっさと地面を舐めろこの下賤(げせん)共」


「あいてててて」


「な、何で俺まで?」


 先程までのアルテーリエの落差と、激しい攻めに二人はたまらず尻餅を着いた。


「判決……死刑×2!」


 するとアルテーリエはフリューゲルとソラに追い打ちをかけるように、指をさしながら冷徹に言い放つ。


 それを聞いたフリューゲルとソラは顔を青ざめさせた。


「し、死刑!?」


「あのう、俺付き添いで来ただけで何もしてないですよ、悪いのはパンツァーステッチャー盗んだこのフリューゲルだけなんで、やるならこいつ一人だけにしてください」


「あ、てめえ何仲間売ってんだこの野郎、連帯責任だ最後まで付き合え」


「何が連帯責任だ、俺を巻き込むな!」


 フリューゲルとソラが醜く揉み合っていると、二人の後方から一連のやり取りを暫く傍観していたエイラリィがゆっくりと前に出た。


「あのアルテーリエ様、もうその辺にしてあげてはどうですか?」


「ふん、エイラリィがそう言うならこのくらいで許しておいてやるとするか」


 するとアルテーリエはそう言いながら、二人に背を向け王座に座り直した。


 アルテーリエの豹変、更にそこから突然の収束。事態の急展開に付いて行けず、フリューゲルとソラはぽかんとしながら佇んでいた。そんな二人にアルテーリエが言う。


「フリューゲル=シュトルヒ、貴様の犯した罪はとっくに不問としている。でなければこの一ヶ月間何の音沙汰も無い訳がないだろう」


「え、不問……っすか?」


 呆けた表情で聞き返すフリューゲルに、アルテーリエが返す。


「だがヨクハちゃんから、今日、件の当事者が行くからびびらせてやってほしいと言われてな、不問にしたとはいえ少しだけお灸をすえてやったまでだ」


「ヨクハちゃん?」


 親しげにヨクハの事を呼ぶアルテーリエを、ソラが不思議に思っていると、突然フリューゲルがハッとしたように叫んだ。


「あっ!」


「何だよフリューゲル?」


「あの時ヨクハ団長のやつ、笑い堪えてやがったのか!」


 すると、フリューゲルは今朝ヨクハが出頭の件を伝えて来た際、両拳を震わせていたのを思い出し、それが悲しんでいる訳ではなかった事に気付いたのだった。


「え、ってことは俺達このドッキリの為だけにここに寄越されたんですか?」


 ソラが不満気に尋ねると、アルテーリエが目を細めながらソラへと詰め寄る。


「だけとは何だ、だけとは? ソードの窃盗は重罪だぞ、不問にしてやったんだから礼を言いに来るのは当然の事だろうが!」


「お、おっしゃる通りです……いや、俺が盗んだ訳じゃないんですけどね」


「……それにしても」


 すると突然、アルテーリエが悲しげに溜息を吐き、そっと呟いた。


「もしかしたらヨクハちゃんに会えるかもと思ったのに、やっぱり来てないか」


「申し訳ありません」


 残念そうにするアルテーリエを見て、謝罪の念を示すエイラリィ


「い、いやいいんだエイラリィ。一騎士団長であるヨクハちゃんが忙しいのは解ってる。それにエイラリィが来てくれただけでも感謝の念しかない」


 そんな二人のやり取りを見て、ソラとフリューゲルは改めてエイラリィがこの場に居る理由を不思議に思った。


「そういやエイラリィは何でここに来たんだ?」


「そうそうそれは気になってたんだよね、何か以前からアルテーリエ様と知り合いみたいな感じだし」


「…………」


 二人の問いに、エイラリィは少しだけ気まずそうに口を噤んだ。するとアルテーリエが先に口を開く。


「エイラリィには以前から定期的に世話になっていてな」


「世話ですか?」

 

 アルテーリエは言う。エイラリィには今日もその関係で足を運んでもらったのだがその件は後にし、今からソラとフリューゲルの二人にここへ足を運ばせた件の本題に入るとの事だ。


「本題って言うと――」


「先の(はい)の空域攻略戦における論功行賞だ」


 それを聞き、ソラとフリューゲルが顔を見合わせた。


「ろんこうこうしょう! ……ってなに?」


「あれだろ? 何か戦果に対して褒美をあげますみたいなやつ」

86話まで読んでいただき本当にありがとうございます。もしこの作品を少しでも気に入っていただけたり、続きを読みたいと思ってもらえたら


【ブックマークに追加】と↓にある【☆☆☆☆☆】を

【★★★★★】にしていただけると大変救われます。


どうか力を貸していただけませんでしょうか。

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