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83話 馳せるあの日の想い

 十数分後、四人はキアノ島へと到着する。


 氷雪の群島イェスディランの島の一つであるキアノ島もまた、雪に覆われているとはいえ、フォルセス島とは違い多くの民家や建物が建ち並んでいた。


 建物の背は低く、どの建物も円柱のような形状に円錐状の赤い屋根が付いていた。イェスディラン群島の建物の特徴的な造りである。


 島の端にソードを着陸させ、ソラ達はキアノ島へと足を降ろす。


 すると直後、島に降り立つソードに気付いた島の住人が数名、ソラ達に近付いて来た。


「あ、どうもこんにちは、私達ちょっとこの島で食事させてもらいたくて寄ったんですけど」


 プルームがキアノ島の住人にそう言うと、住人達は顔を見合わせた。


「やっぱついこないだまで敵国の騎士だった俺らをいきなり受け入れるってのは無理があるよなあ。出直した方がいいんじゃない?」


 ソラが気まずそうに他の三人に提案すると、島の住人達からは意外な反応が返ってくるのだった。


「その紋章、〈因果の鮮血〉と一緒に〈連理の鱗〉と戦った〈寄集(よせあつめ)隻翼(せきよく)〉って騎士団の人達ですよね?」


「ええ、まあ」


「ありがとうございます」


 島の住人達が礼をしながら謝意を示すと、ソラ達は敵国の領空下にあった住人達のその思わぬ言葉に、互いに顔を見合わせながらきょとんとしていた。


 すると住人達は語る。スクアーロが倒され、エリギウス帝国の統治から抜けた事で、この島の住人は救われた。(はい)の空域内にある島の住人達は、スクアーロの実験に利用され、数えきれない程の者が犠牲となった。もしあのまま塵の空域がスクアーロに統治されていたら自分達も自分達の家族もいずれは犠牲になっていた。


 (はい)の空域だけではなく、イェスディラン群島の他の空域でも騎士師団長による独裁、圧政、(やいば)狩りと称した強制連行が依然として行われている。自分達はエリギウス帝国からの完全な解放を願っており、イェスディラン群島の他の島民も皆同じ気持ちなのだと。


「これだけは覚えておいてくれ、俺達はあんた達には心から感謝しているんだ」


 それを聞き、今度はソラとプルームとパルナが再度顔を見合わせた。


 戦争に正義は無い、それでも自分達の戦いが誰かの為になっている、誰かの為になる筈だ。そう信じて戦って来た者達にとって、キアノ島の住人からかけられた声は、何よりの原動力であった。


 ……そしてリアは一人、俯いて感慨深げな表情を浮かべるのだった。





 それから島の村にある酒場に四人は居た。一つのテーブルを囲み、パルナはリアに自身のこれまでの道のりを語ったのだった。


 それに対しリアが想いを告げる。リュカが死んだ日、パルナは教団から逃亡し、追手から瀕死の重傷を負わされながらも姿を消した。教団内では生死不明という形で捜索は打ち切られていたが、パルナが何処かで生きているのではないかとずっと信じていた。


 優しく語りかけるようなリアの声を聞き、パルナは後ろめたそうに俯きながら返す。


 パルナはリュカを奪った醒玄竜(せいげんりゅう)教団を許す事が出来なかった。だから教団から逃亡した。例え殺されたとしても、いや殺されてもいいとすら思った。醒玄竜(せいげんりゅう)教団以上にリュカを死なせた自分を許す事が出来なかったからだ。


 悲痛な想いを吐露するパルナに、リアもソラもプルームもただただ黙って話に聞き入った。


「でも今の〈寄集(よせあつめ)隻翼(せきよく)〉の人達に助けられて、生き長らえて、今はその人達の為に何かをしたいって思うようになった……でも!」


 パルナの声は少しずつ震えていく。


「私は今でもあの日の事をずっと後悔してる。どうして殺されたとしてもリュカへの封怨を拒否しなかったんだろう、どうして二人で逃げる選択肢を選べなかったんだろう、どうしてあの日死なずに生き残ってしまったんだろう、ずっと……ずっと後悔してる!」


 すると、今度はリアが悲しげな表情で俯き、そっと口を開く。


「後悔なら私もずっとしているわ」


「え?」


「私だってそう、私だって何人もの封怨の神子みこに怨気を封印してきた。それに私がもっと早く浄化の宝珠を作り上げていたら、リュカもあなたも、そして他の教団員達も救う事が出来ていた」


 それを聞き、パルナ達全員が目を丸くした。


「リアお姉ちゃんが浄化の宝珠を?」


 八年前のあの日、封怨の神子みことしての役割を果たしたリュカが死に、その自責の念からパルナが教団から離反して生死不明となった。リアは二人を失って、もう二度と二人のような犠牲者を生み出したくない、その一心から、十歳の子供と同じ怨気封印率を持つ人工物の生成に没頭した。そしてようやく三年前に浄化の宝珠を完成させたのだと言う。


「そう……だったんだね」


「自分を責めないでパルナ、あなたは利用されただけ、あなたに罪はないわ」


「…………」


「罪があるのだとしたら、戦災孤児などの幼い子供を洗脳して支配し、封怨術を独占し、己の私腹を肥やしてきた。全ての元凶は教皇“ジーア=オフラハーティ”にある」


 するとパルナは、リアのその発言に対し明確に否定するように、(かぶり)を何度も振った。


「違うよリアお姉ちゃん。ジーア様はそんな人じゃない、ジーア様は両親が死んで独りになった私に優しく手を差し伸べてくれた。私が六歳になったあの日、魔獣に襲われそうになった私を、ジーア様は大怪我を負ってまで身を挺して庇ってくれた。そして言ってくれたの――」


「『君は私の家族だ、家族を守るためならばこんな傷など安いものだ』」


 パルナの言葉を遮るように言ったリアの言葉を聞き、パルナは唖然とした。自分しか知らない筈のジーアの言葉をリアが知っていたからだ。


 そしてリアにもあるのだという。パルナと全く同じ記憶が、そして他の教団員達にも。


「う……そ」


 リアから語られる衝撃の真実に、パルナはただ茫然となることしか出来なかった。


「ねえパルナ、あんた不思議に思った事はなかった?」


「何の事?」


「あんたはいつ封怨術を使えるようになったか考えた事はある? どこでどうやって覚えたの?」


 リアの質問を受け、初めて意識的にその記憶を探るパルナは愕然とした。そして自身の頭を抱え答える。


「わからない、私はどうして自分が封怨術を使えるのか知らない!」


「そう、あなたのように教団を離反する封怨術師がいたとしても、封怨術が未だに教団の門外不出の術であり続ける理由、その答は修得方法を誰も知らないから」


 静まりかえる場の中で、リアは淡々と続ける。


「どうして私達は修得している封怨術の修得方法を知らないの? どうして私達は皆教皇に対する共通の記憶を持っているの?」


 そして、大きく呼吸した後、リアは決意したように一つの結論を口にするのだった。


「そして辿り着いた一つの答、私達は記憶を操作されている」


「そん……な」


「私は必ずジーア教皇と封怨術修得の秘密を暴き、そして今の醒玄竜(せいげんりゅう)教団の体制を崩壊させてみせる、必ず……それが私が死なせてしまった封印の神子みこ達と、リュカや重荷を背負わせてしまったあなたに対する私なりの償いだから」





 それから、四人はキアノ島を後にし、リアが乗ってきたヒポグリフの元へ送り届けるため、再びフォルセス島本拠地の格納庫へと戻った。


 そしてリアはヒポグリフに跨り、キアノ島を後にしようとしていた。パルナはリアを見送ろうとしながらも、頭の中には様々な感情が渦巻き、明らかに心ここにあらずといった状態であった。


 そんなパルナにリアが声をかける。


「そうだパルナ、あなたが封怨した浄化の宝珠、私が処分しておくわね」


「あ、うん、ありがとう」


 パルナは言われるがまま怨気が封印された浄化の宝珠をリアに手渡した。それを受け取ると、リアはパルナの髪に優しく触れながら言う。


「ごめんねパルナ、急に色々突き付けられてあなたは今混乱しているだろうと思う。でも、教団の事は私が必ず片を付けるから、あなたは立ち止まらず、ただ自分の道を進みなさい」


「……リアお姉ちゃん」


「それと封怨の前日、リュカから預かっていた言伝(ことづて)があるの」


「ほ、本当!? リュカから!?」


 顔を上げ懇願するようにパルナに詰め寄ると、リアは優しい声でリュカの言葉をそっと伝える。


「『あいつ、俺しか友達いないからきっと俺がいなくなったら落ち込むんだろうな、それに自分を責めちまうんだろうな。でも俺はパルナが泣いてるのを見るのが一番嫌だ。だから笑っててほしい。俺はどんな時でもパルナの味方だから』」


 栗色の癖毛、屈託の無い透き通った翡翠色の瞳、無邪気で人懐っこい少年の笑顔をパルナは一人思い浮かべた。たくさんの想い、たくさんの感情、温かいものが止めどなく溢れ続けた。溢れて止める事が出来なかった。

83話まで読んでいただき本当にありがとうございます。


ブックマークしてくれた方、評価してくれた方、いつもいいねしてくれてる方、本当に本当に救われております。


誤字報告も大変助かります。これからも宜しくお願いします。

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