68話 運命の再戦
「あれは確か第十一騎士師団〈灼黎の眼〉の……」
この場に別の騎士師団のソードが居る事に、カナフは驚き目を丸くさせた。そして目の前のソードがネイリングである事を確認したソラの表情が明らかに強張る。
「ここは私に任せて」
直後、プルームはすぐさま浮遊している残り四基の思念操作式飛翔刃と、肩部に収納されていた二基の思念操作式飛翔刃――自身が装備している全てを射出し、オルタナのネイリングを狙う。
計六基の思念操作式飛翔刃は上下左右、複雑無比な凄まじい軌道を描き、音を越え、残像を残しながらオルタナのネイリングの全方位から襲い掛かった。
『竜殲術により恐ろしく疾く、複雑な軌道を描く思念操作式飛翔刃か……だが所詮は児戯だ』
刹那、オルタナはネイリングの腰を低くさせて居合構えとなると、鞘ごと左手に持った羽刀型刃力剣の鯉口を切る。次の瞬間、無数の剣閃が奔り、六基全ての思念操作式飛翔刃が空中で切断され、爆散した。
『……塵化御巫流 葬炎』
目にも止まらぬ恐るべき剣技の前に思念操作式飛翔刃が通じず、その想定外の事態に動揺を隠せないプルーム。
「うそっ!」
すると、オルタナのネイリングは一瞬でプルームのカットラスとの間合いを詰め、再び剣を鞘に納め、居合の構えを取っていた。
『プルームちゃん!』
ソラの叫びと同時、プルームは咄嗟に騎体を後退させ、回避の姿勢を取る。
「きゃああああ!」
しかし、オルタナのネイリングから放たれた斬撃が、プルームのカットラスの胸部に深々と刻まれ、その斬撃痕から炎が噴出した。
『……焔薙』
ネイリングはすぐさま納刀する。しかし直後、カナフのタルワールが狙撃式刃力弓から連続で雷を纏った光矢を放ち、オルタナはそれを後退して回避させられることにより、プルームのカットラスから距離を取った。
「損傷甚大! ごめん、戦闘継続は無理かも」
カットラスは撃墜までは免れたものの、受けたダメージはあまりにも大きく、その場に片膝を付いて動けなくなった。
「え?」
すると直後、プルームのカットラスはその場から姿を消し、カットラスが居た場所にはエスパダロペラ――否、スクアーロのストリッシャが立っていた。
「いやあ助かりましたよオルタナさん」
突如この場に出現したスクアーロが、オルタナへと謝意を示すような伝声をする。
「あなたのお蔭でまずは一人、竜魔騎兵を捕える事が出来ました」
『私はそんな事に協力したつもりはない』
「はは、まあいいじゃないですか細かい事は」
『それよりも貴様、こんな所で油を売っていていいのか?』
「どういう事です?」
そんなオルタナの意味深な指摘に、スクアーロは眉をひそめ不思議そうに首を傾げた。
『東方は私が、西方は貴様が守護している。しかし南方はその二つに比べて明らかに守備が薄い、南方から拠点を突破されれば一気に本拠地を制圧されるぞ』
「ああ、その心配はありません。切札はちゃんと用意していますので」
『切札……だと?』
今度はスクアーロが意味深に答え、オルタナが訝しげに聞き返した。
「ええ、それと私はもうここに用はありません、きちんとこの方達の撃退を宜しくお願いしますよ特務遊撃騎士さん」
『誰に物を言ってる?』
するとスクアーロとスクアーロのストリッシャの額に剣の紋章が輝き、スクアーロは別の場所に居たエスパダロペラと入れ替わってその場から姿を消した。
そして、プルームのカットラスがその場から姿を消した事で、動揺するソラ。
「プルームちゃんが消えた……パルナちゃん、プルームちゃんのカットラスが何処に行ったか分かるか?」
『ちょっと待って……本拠地城塞の中にカットラスの識別信号と、プルームの生体反応を確認』
それを聞いたカナフが考察し、告げる。本拠地城塞に一瞬で移動したという事はスクアーロの入れ替えの竜殲術によるものであり、恐らく本拠地城塞の幽閉場所にあらかじめエスパダロペラを待機させておき、自分とそのエスパダロペラの位置を入れ替えてから、プルームのカットラスと位置を入れ替えたのだろうと。
それに対し、ソラは危機感を募らせた。
「それかなりまずくないですか? 他の三人もその能力を使われたらすぐに捕まっちまう」
『いや、それが出来るなら最初からそうしている筈、敵と入れ替わる為には何か条件があるのだろう……だが今はそれよりも』
言いながらカナフは狙撃式刃力弓の銃口をオルタナのネイリングへと向けた。
それを見て、ソラもすぐにオルタナへと意識を集中させる。操刃していたのは量産剣であったとはいえ、聖衣騎士であるプルームを圧倒したオルタナ。
上位の騎士師団長にすら匹敵する――以前ヨクハが言っていたその言葉を思い出し、ソラはカレトヴルッフに剣を構えさせながら一つの決意を口にする。
「カナフさん、オルタナとは俺が戦う。カナフさんは〈因果の鮮血〉の騎士を率いて残りの奴らを頼みます」
『まさか一騎討ちのつもりか?』
「カナフさんは狙撃騎士。でもこの吹雪の中じゃ遠距離からの狙撃は無理だから中距離で戦うしかない。本来の距離で戦えないカナフさんじゃオルタナを相手にするのは無理だと思う」
ソラが言い放ったまさかの正論に、カナフは押し黙ると、少しだけ口の端を上げた。
『邪魔になると言いたげだな、まさかレイウィングに足手まとい扱いされる日が来るとはな』
「え、いやいやいやそんなんじゃないですって!」
『気にするな、お前の言う通りだ。俺は俺に出来る仕事をする、だから死ぬなよレイウィング』
カナフはソラにそう告げると、その場から迂回するようにして距離を取り、〈因果の鮮血〉のパンツァーステッチャーと共に遥か前方のエスパダロペラの部隊に攻撃を開始した。
そして残されたソラは、オルタナと一対一で対峙する。
『その宝剣、お前はあの時の……あれ程の力の差を見せつけられて尚、私の前に立つというのか?』
ネイリングに居合構えを取らせたままのオルタナからの伝声に、ソラは少しだけ俯いて心の中で答える。
――正直怖いよ、五年前のあの日から俺は誰よりも臆病になった。死にたくない、死ねない、だから傷付きたくない、危ない目に遭いたくない。そうやってたくさんの事に怯えて、たくさんの事から逃げて来た。それでも……
するとソラは顔を上げ、力強く両手の操刃柄を握り締めた。それに呼応するように剣を構えるカレトヴルッフが足幅を広げ、前傾姿勢となる。
「それでもお前だけは俺が倒す!」
その鋭い眼光と淀みのない真っ直ぐな声に、本拠地でやり取りを見ていたパルナが頬を少しだけ赤くし、カナフは少しだけ顔を綻ばせた。
「えーと、だからカナフさん俺の事ちゃんと守ってくださいね。オルタナと集中して戦ってる時に後ろから撃たれたりしたら嫌なんで」
しかしソラはすぐさま普段の気の抜けたような調子でカナフに伝声を行い、パルナとカナフは肩透かしを食らった。
『途中までかっこよかったのに、やっぱりいつものソラね』
『まあその方が上手くいく場合もある。周りの雑兵は俺に任せろレイウィング、俺と〈因果の鮮血〉の騎士で何とかする』
すると、ソラに対しオルタナから伝声が返る。
『私を倒す? お前は”七ツ目”の情報を知りたいのでは?』
「ああそうだ、だからお前を倒してエルの居場所を聞き出す」
その言葉を聞き、ソラにオルタナの明確な憤怒の感情が突き刺さった。
『それは不殺で私を制するという事か……舐めるなよ小僧!』
次の瞬間、オルタナはネイリングの羽刀型刃力剣の鯉口を切りながら、ソラのカレトヴルッフへと突撃した。
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