67話 吹雪の中の戦い
「どうすんだよ団長!」
「……このままじゃジリ貧です」
防戦一方の状況に痺れを切らすフリューゲルとエイラリィ。するとヨクハは小さく溜息を吐き、ムラクモの左腰から二本目の羽刀型刃力剣を抜き、二刀流となった。
「スクアーロと戦うまでは刃力を温存しておきたかったが仕方あるまい」
そしてヨクハの双眸が竜の瞳へと変わった直後、ムラクモは地を爆裂させ粉雪を舞わせながら敵陣へと突撃する。そして敵の光矢による弾幕を掻い潜りながら、右手の羽刀型刃力剣は順手のまま、左手の羽刀型刃力剣を逆手へと持ち直すと、両手の羽刀型刃力剣の刀身が光り輝く。
「ここで突破口を開く!」
更に、敵陣の中央で横に一回転しながら斬撃を放つと、ヨクハのムラクモを中心として輪状の光の刃が波紋のように広がっていく。
「……都牟羽 参式 閃空」
その光の刃に無数の氷柱が切断され、数騎のエスパダロペラが氷柱ごと騎体を両断されその場で爆散。十数騎のエスパダロペラは光の刃を伏せて躱したものの、防壁にしていた氷柱が切断された事で無防備な状態へとなる。
「よし、今だ!」
それを見てフリューゲルのパンツァーステッチャーが狙撃式刃力弓での狙撃を開始し、それを皮切りに、〈因果の鮮血〉のパンツァーステッチャー達も一斉に射撃を開始する。属性相性無視の射撃である為、直撃をしても撃墜を免れる敵騎も多いが、それでも戦況は明らかにヨクハ達へと傾いた。
※
一方、西方からの進撃を開始したウィン達の部隊。ウィン達もまた、ヨクハ達と同じく散布式色覚封印霧の効果により色覚を失っていた。
しかし、ウィンのフロレントとシーベットのスクラマサクスは、敵の無数の光矢に対して無防備に、そして真っ直ぐに突っ込んだ。
すると、フロレントとスクラマサクスに向けられた集中砲火は突如出現した光の盾に遮られ、二騎は敵陣へと入り込むことに成功する。その光の盾はデゼルの竜殲術〈守盾〉によるものであった。
そしてシーベットのスクラマサクスはエスパダロペラの懐に入り、頸部を一つ、二つと一閃していく。
一方ウィンは氷柱を防壁にするエスパダロペラの腹部を、側面からすれ違い様に射貫いていく。しかし二騎、三騎と撃墜した直後、左右から双剣を抜いて斬り掛かってきた二騎のエスパダロペラが既にウィンのフロレントの至近距離まで迫っていた。
だがウィンは、刃力弓を持つフロレントの両手を顔の前で交差させると、それぞれの刃力弓の銃口を左右の二騎の頭部へと密着させ――引き金を引いた。
零距離で頭部を撃ち抜かれた二騎は後方に吹き飛びながら倒れ、沈黙する。
すると今度は後方から双剣でウィンのフロレントに斬り掛かる一騎。しかし、フロレントはそのエスパダロペラに背を向けたまま刃力弓の銃口を背後に向け、頭部を撃ち抜いた。
更に前方から双剣を構え、迫ってくる一騎のエスパダロペラ。ウィンはそのエスパダロペラの腹部に両手の刃力弓の銃口を向け、瞬く間に六連射した。
しかしその一騎は、放たれた六発の光矢を双剣で全て切り払うと、フロレントの間合いに入り――跳躍からの斬撃を放つ。だが、その斬撃はフロレントが展開する結界、耐実体結界によって防がれた。
「僕に結界を使わせるとはやりますね、明らかに他の騎士とは動きが違う」
ウィンが目の前のエスパダロペラの動きの鋭さを指摘すると、エスパダロペラは後方に回転しながら距離を取り、構えた。
直後、本拠地のパルナから伝声が送られる。
『この戦場に見た目は同じでも他のエスパダロペラとは性能の違うソードが二騎いるわ。一騎はウィンさんが今戦っているソード、間違いなく宝剣よ』
パルナの伝声を聞き、ウィンは確信した。
「騎士の操刃技能も別格で、騎体の性能も他とは違う。あなたスクアーロですね?」
その伝声に対し、目の前の、エスパダロペラと同じ見た目をしたソードから伝声が返ってくる。
『いやあばれてしまいましたか。このソード実はエスパダロペラではなくストリッシャといいましてね、僕の愛刀である宝剣なんです』
「木を隠すなら何とやらといいますが、まさか自分の騎体を紛れさせるために宝剣の見た目を量産剣と同じにするとは……相変わらずこすくて、しかも浪漫が無い」
直後、パルナから再度伝声。
『ウィンさん、言われてた通りスクアーロの騎体に印を付けたわ。これでソードの探知器でも判別が出来る筈』
「さすがパルナさん、仕事がお早い」
パルナがスクアーロのストリッシャに印を付けた次の瞬間、ストリッシャの額に剣の紋章が輝き、すぐさま紋章は消失した。
『うそ、印が消えた!?』
『ふふふ、どうせ伝令員か何かが私の騎体に目印でも付けたのでしょうが無駄ですよ。ウィン先生、地獄はここからです』
ウィン達の目の前には、多数のエスパダロペラが双剣や刃力弓を構えていた。〈連理の鱗〉は全て騎体の見た目も装備も統一され、しかも散布式色覚封印霧により騎装衣の色も判別出来ない為、ウィン達はスクアーロのストリッシャを見失い、目の前の全てのエスパダロペラがスクアーロのストリッシャであるかのような錯覚に襲われた。
「成程、入れ替わりの竜殲術を使うと付けた印が消えるみたいですね……これは思ったより厄介です」
余裕の笑みを浮かべるウィンであったが、その頬には一筋の汗が伝っていた。
※
場面はフォルセス島東方進撃部隊。
他の二部隊と同様、氷柱の防壁、そして散布式色覚封印霧による属性判別の阻害に苦しむソラ、カナフ、プルーム達であったが、他二部隊よりも順調に戦場を攻略しつつあった。何故なら――
「舞え、レイヴン!」
プルームの操刃するカットラスに装備された肩部聖霊騎装、思念操作式飛翔刃は敵が防壁とする氷柱の間を縫って敵騎を的確に狙い撃つ事が出来る為、地の利を無視してエスパダロペラを撃墜する事が可能であるからだ。
思念操作式飛翔刃は八基射出されており、吹雪の中の戦場を縦横無尽に飛び交う。プルームとカットラスの額には剣の紋章が輝き、竜殲術〈念導〉で操作された刃は曇天を駆ける流星の如く、〈連理の鱗〉の騎士達の反応速度を越え、放たれる光矢をすり抜け、奔る斬撃を躱し、氷の防壁の裏に潜むエスパダロペラの腹部を貫いていく。
「すごいなプルームちゃんは……もうプルームちゃん一人でいいんじゃないかな?」
『えへへ、それほどでも』
プルームの活躍により好転する戦況を見て、未だ何もしていないソラは驚嘆混じりに呟き、プルームは照れ臭そうに返した。
やがて、撃墜された無数のエスパダロペラの爆煙が辺りに立ち込める頃、一つの氷柱の後ろに潜むソードの反応を探知器で確認し、プルームはそのソード目がけて四基の思念操作式飛翔刃を左右から強襲させた。
瞬間、二筋の剣閃がプルームの視界の中に奔り、直後操作していた四基の思念操作式飛翔刃の反応が消失。更には巨大な氷柱が切断されており、音を立てて崩れ落ちた。
そこに居たのは一騎のソードであり、刺々しい鎧装甲を持つその騎体は、かつて碧の空域防衛戦の帰陣時に襲撃して来た騎士、オルタナ=ティーバの操刃するネイリングであった。
67話まで読んでいただき本当にありがとうございます。
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〈ストリッシャ 諸元〉
[分 類] 宝剣
[開発地] イェスディラン群島
[所 属] 第十二騎士師団〈連理の鱗〉
[搭乗者] スクアーロ=オルドリーニ(射術騎士)
[属 性] 水
[全 高] 10.2m
[重 量] 11.8t
[武 装] 刃力剣×2 刃力弓
散布式色覚封印霧 耐実体結界
凍結式刃力砲 氷縛式射出鞭
[膂 力] D+
[耐 久] B
[飛 翔 力] C+
[運 動 性] B
[射 程] B
[修 復 力] B+
[総 火 力] B+
[騎体解説]
エリギウス帝国時代になってから、イェスディラン群島にてスクアーロが開発した比較的新しい宝剣で、見た目は完全に量産剣のエスパダロペラと同じ。操刃者であるスクアーロが水の守護聖霊を持つ為、刃力核直結式聖霊騎装や盾付属型聖霊騎装は、水の聖霊の意思を利用して相手を凍結させて身動きを取れなくしてから止めを刺すといった類のものを装備している。
また、スプレッツァトゥーラ流の二刀流を体現する為に刃力剣を二本備えている。
特筆すべきは肩部聖霊騎装の散布式色覚封印霧であり、部隊に装備させた同武装を一斉に起動させ、敵の色覚を封じる。そして味方部隊に紛れるといった戦法を取る。その為、本騎は宝剣……つまり専用騎でありながらも量産剣と同じ外観をしているという、ウィン曰く浪漫の無い騎体。ただしその性能は穴が無く、非常にバランスが取れた騎体でもある。