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63話 それぞれの再会

 すると直後、ソラは自身に訪れたとある症状を自覚する。


「あれ、何か……目の前が」


 目の前が霞み、脱力感が訪れたのである。それは体内の刃力が枯渇しかけた際に発症する症状であり、更に刃力を消耗すれば意識を完全に失い、呼吸不全や臓器不全を引き起こし最悪死に至る。そんなソラに対しヨクハがちくりと苦言を刺す。


抗探知結界(シャドウスフィア)で刃力をかなり消耗している状態で刃力核直結式を二発も使えばそうなるに決まっておる』


「はは……ウィンさんの戦い方を見て、意識の隙間ってやつを狙ってみようと思って」


『ふん、無茶をする奴じゃ……まあ敵騎を三騎撃墜させた事は褒めてやるが、とは言えこれ以上刃力を消耗するのは危険じゃ、お主は一旦退がっておれ』


 ヨクハの指示を受け、ソラはカレトヴルッフの右手の刃力剣を腰の鞘に納め、ヨクハのムラクモの後ろへと退避した。そんなソラに対し、ヨクハは伝声器越しにぽつりと呟く。


『……勝手な行動をした罰は後で受けてもらうぞ』


「えぇっ!」


 ヨクハの静かな指摘に悲痛の声で応じるソラであったが、すぐに目の前のエスパダロペラを睨みつけると――


「お前達のせいで後で団長にしごかれる事になった……この恨み、はらさでおくべきか」


 と、半ば八つ当たりのように怒りの伝声を送った。そんなソラを余所に、十数騎のエスパダロペラは撤退中のカットラスとパンツァーステッチャーを追おうと一斉に発進する。


 プルームはフリューゲルを連れて撤退中、ソラは刃力を消耗し戦闘継続は困難。今現在、戦力として数えられるのは自分とウィンのみ。この危機的状況に、ヨクハは軽く嘆息すると、ムラクモに羽刀型刃力剣スサノオを構えさせた。


「やれやれ」


 そして深く呼吸を吸うと、そっと目を閉じ――一気に開眼した。


 すると、その瞳の瞳孔は縦に割れ、竜を彷彿とさせる双眸(そうぼう)へと変化する。


 瞬間、ヨクハはムラクモの各推進器から刃力を全開にさせ、プルームとフリューゲルを追わんとするエスパダロペラとの距離を一瞬で詰めた。


 更に、すぐさま右の腰に差した鞘からもう一本の羽刀型刃力剣(スサノオ)を抜き、所謂(いわゆる)二刀流の状態となる。


 そしてムラクモは蒼い騎装衣を(なび)かせながら、左手の剣で一振り、右手の剣を一振り、すれ違い様に一瞬で二騎のエスパダロペラの胴体を切断。直後ヨクハは、ムラクモを反転させ、騎体を旋回させながら剣を奔らせ、三騎、四騎とエスパダロペラを撃墜させていった。


「二刀流は貴様達スプレッツァトゥーラ流の専売特許ではない」


 言い放ちながら、ヨクハのムラクモはプルーム達を追おうと飛翔するエスパダロペラ全騎を追い越すと、再度騎体の向きを反転させ両手の羽刀型刃力剣(スサノオ)を交差させて深く構えた。すると羽刀型刃力剣(スサノオ)の刀身に光が収束し、強く輝く。


都牟羽(つむは) 壱式 飛閃(ひせん)・連刃!」


 ムラクモが剣を振るうと、光り輝く刀身から交叉状の光の刃が放たれ、更に複数のエスパダロペラが切り裂かれて空中で爆散した。


 それに怯んだのか、プルーム達に向けて飛翔していたエスパダロペラ全器がその動きを止める。


 そしてそれらのエスパダロペラを操刃する騎士達に向け、ヨクハが伝声を行った。


「〈連理の鱗〉全器に告ぐ。このムラクモに背を見せた者、最初に見せた者から順に斬り捨てる!」


 その圧倒的な剣技、その言葉、そして凄まじい威圧感に、〈連理の鱗〉の騎士達は戦慄し、誰もが最初に動こうとするのを止めた。



 ――やりますね、十騎近くのエスパダロペラを一瞬で撃墜させ、たった一言でうちの騎士達に恐怖を植え付ける、相変わらず尋常ではない強さ……まるで“三殊(さんしゅ)神騎(じんぎ)”を彷彿とさせる。しかし腑に落ちませんね。


 自軍を圧倒するヨクハに対し、スクアーロは冷静に何かを考察するようにヨクハのムラクモに視線を送り続けた。この状況そのものに浮上する違和感、それがどうしても拭えなかったのだ。


 ヨクハ達の騎士団は竜魔騎兵を四人も擁し、更にはウィン=クレインまでもいる。そしてヨクハの桁外れの強さ、数の差はあれど殲滅作戦ではなく、わざわざ抗探知結界(シャドウスフィア)を用いたこのような奪還作戦を行う必要があるのかと。


 ――恐らくは何かしらの理由があるのでしょうね、例えば考えられるのはここで私達を倒したくない理由があるとか、能力になんらかの制約があるとか……


 すると、考察の途中でスクアーロは何かを確信したように破顔した。


「うーんしかし最も考えられるのが、あなたの戦闘継続可能時間が極端に短い……とか?」


 スクアーロはその言葉の直後、全騎士団員に指示を送ると、エスパダロペラが距離を取りつつ大きくばらけ始めた。そして全騎が刃力剣クスィフ・ブレイドを納め、刃力弓クスィフ・ドライヴアローを構えた。明らかに長期戦を想定した陣系となったのだ。



「……ここまでか」


 ヨクハは静かに呟くと、双眸(そうぼう)をそっと閉じ、ゆっくりと開いた。するとその竜の如き瞳は通常の元の瞳へと戻る。


「潮時じゃウィン殿!」


『了解です』


 するとウィンのフロレントの両肩部が開放され、中から追尾式炸裂弾(アーティファクト)が全段射出された。更に、ウィンは射出された追尾式炸裂弾(アーティファクト)へ向けて両手の刃力弓(クスィフ・ドライヴアロー)を構え、凄まじい速さで光矢を連続で発射させた。


 次々と撃ち落される炸裂弾は爆炎と爆煙を激しく巻き起こし、周囲の視界を削ぐ。


『ちっ!』


 すると爆煙の中で歯噛みするスクアーロに伝声が入る。


『ここで決着を付けられないのは残念ですねスクアーロ。ですが近い内にあなたとはケリを付けるつもりですのでお忘れなく』


 ウィンはそれだけを告げると伝声を切断した。



 一方、ウィンの追尾式炸裂弾(アーティファクト)を利用しての煙幕により、スクアーロはウィン達を見失っていた。


 そして爆煙が晴れた頃〈寄集(よせあつめ)隻翼(せきよく)〉は既に撤退を終えていた。


 〈連理の鱗〉の騎士十数名が討ち取られ、エスパダロペラも同数撃墜、更にはフリューゲルの捕獲も失敗し、〈寄集(よせあつめ)隻翼(せきよく)〉の撤退も許す。結果だけを見れば散々たるものであり、敗北といっても過言ではない。しかしスクアーロはそれでも一人ほくそ笑んだ。


「近い内に……ですか、いいでしょう。あなた達は必ずここへやって来る事になる、必ずね」



 それから、〈連理の鱗〉の全騎もまた本拠地へと撤退を開始する。しかし一器の赤いエスパダロペラだけがその場に留まり、立ち尽くすように浮遊していた。


 それはアイデクセの操刃する騎体であり、アイデクセは一人物思いにふけるように遠い目で一点を見つめていた。


『何をしているんですかアイデクセ、帰陣しますよ』


「――は、はい申し訳ありませんスクアーロ師団長」


 スクアーロの指摘で我に帰ったように返答するアイデクセ。


『あなたさっき、戦闘や竜魔騎兵の追跡にも参加せず何をやっていたんですか?』


「す、すみません……ぼ、僕はその」


何かを隠すかのように言い淀むアイデクセに、スクアーロは深くため息を吐く。


『もういいです、次はしっかり頼みますよ。あなたには期待していますからね』


「は、はい」




※     ※     ※



 時は少しだけ遡る。


『お前達のせいで後で団長にしごかれる事になった……この恨み、はらさでおくべきか』 


 カレトヴルッフの炎装式刃力砲(クスィフ・ブレイズカノン)による砲撃を回避した後、部隊のエスパダロペラはフリューゲルとプルームの追跡を開始した。しかしアイデクセはその聞き覚えのある声を聞き、任務を放棄してその場に留まっていたのだった。


「い、今の声ソラ? ソラなの?」


『お前こそアイデか? おおっ! ていうか銀衣騎士に覚醒出来たんだなアイデ』


「あ、うん何とかね……ってそうじゃなくて、何でソラがこの騎士団に!」


 久々の再会であるが喜べるような状況ではなく、アイデクセはソラがエリギウス帝国と敵対する騎士団に所属している事に驚きながら問う。


『いやあ色々あってエリギウスには戻れなくなってさ、でも俺やらなくちゃらならない事があって、成り行きっていうか』


「……んだよそれ」


 ソラの言葉を聞き、沈んだ声を振り絞らせるアイデクセ。直後、憤りを顕わにするように叫んだ。


「何だよそれ!」


『……アイデ』


「騎士養成所で励まし合った君の事を僕は親友だと思ってた、いつか同じ騎士団で一緒に戦おうって言った。なのにそんな簡単にエリギウスを裏切って、僕を裏切って、そうまでしてやらなくちゃならないことがあるっていうの!?」


 アイデクセがソラに強い憤りと悲しみをぶつけたその時、ウィンが追尾式炸裂弾(アーティファクト)を射出し、それを全弾撃ち落して煙幕を発生させた。撤退の合図であった。


『救わなきゃならない人がいるんだ、俺はその為に騎士になった……その為にはどんな事でもする。だからごめんなアイデ』


「ソラ! 待ってよソラ!」


 懇願するようなアイデクセの声が、灰色の空に虚しく響き渡っていた。



※     ※     ※

63話まで読んでいただき本当にありがとうございます。


ブックマークしてくれた方、評価してくれた方、いつもいいねしてくれてる方、本当に本当に救われております。


誤字報告も大変助かります。これからも宜しくお願いします。


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