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62話 意識の隙間

 時は現在へと戻り、ウィンはスクアーロと対峙する。


『尻拭いとは?』

 

 スクアーロが問うと、ウィンは一拍空けて答えた。


 己が考案した人体への聖霊石適合術法、それを基にスクアーロが実際に非人道的な方法で竜魔騎兵計画を進めてしまった事、そしてそれによりオルスティア統一戦役を引き起こしてしまった事。なによりスクアーロという愚かな弟子を放置してしまった事、その責任を取りに来たのだと


『残念ですねウィン先生、あなたをこの〈連理の鱗〉に引き入れ再び共に高みを目指したいと思っていたんですが、僕の敵になるという事ですね』


「ええ、そういう事になりますね」


 ウィンはフロレントの両手の刃力弓(クスィフ・ドライヴアロー)をスクアーロのエスパダロペラへと向けた。


 次の瞬間、スクアーロのエスパダロペラの額に剣の紋章が浮かび、最後方に位置していた緑色のエスパダロペラと場所が入れ替わる。


『ふふ、この部隊の大将である私がわざわざ前に出るなんて馬鹿な真似はしませんよ』


「やれやれ、相変わらずこすい事しますね」


 一騎討ちの目論見が外れ、ウィンは残念そうに肩をすくめる。すると伝声器を通して部隊に指示を出すスクアーロ。


『全騎に告ぐ、聖衣騎士の二人は生け捕りにしなさい。他の三騎は討ち取って構いません』


 その指示を受け、ヨクハ達を囲んだまま待機していた数十騎のエスパダロペラが一斉に腰の鞘から刃力剣(クスィフ・ブレイド)を二本抜き、双剣を構える。


 それを見て今度は、ヨクハが自軍へと指示を出した。


「プルームはフリューゲルを連れて戦線を離脱、突破口はこちらで開く――ソラ!」


『うわあ……ほら言わんこっちゃない。やっぱり囲まれちゃったじゃん団長』


「お主はいちいちうるさいぞ、早くせんか!」


 ヨクハの指示を受け、ソラが右腰に備えられ背部側へと収納されている砲身を展開し、カレトヴルッフに新たに装備された刃力核直結式聖霊騎装、炎装式刃力砲(クスィフ・ブレイズカノン)を退路に位置するエスパダロペラ複数騎へと向けた。

 

 直後、砲身に光が激しく収束していき、砲身の前に炎を纏った光の球が出現、そして炎を纏った光の球は、激しい赤い光の奔流となって発射され、敵部隊へと襲い掛かる。 


 それに反応したエスパダロペラはそれぞれが炎装式刃力砲(クスィフ・ブレイズカノン)の一撃を回避するように左右へと騎体を回避させた。


 正面からの見え見えの大技、ソラの一撃がエスパダロペラに当たる事は無かった。しかし――


「道が開けたぞ、プルーム!」


『うん、了解だよ団長』


 フリューゲルのパンツァーステッチャーを抱えるプルームのカットラスは、ソラの炎装式刃力砲(クスィフ・ブレイズカノン)により開いた活路を利用し、この戦線からの突破を試みた。


 ソラの一撃はあくまで牽制、フリューゲルとプルームを離脱させる為の退路を作る目的であったのだ。


『離せ、離せよプルーム! 俺はあいつを、スクアーロの野郎を射殺(いころ)すためにここに来たんだ!』


 激しく抵抗の姿勢を見せるフリューゲルであったが、関節の凍らされたパンツァーステッチャーではそれも無意味であり、プルームのカットラスに連れられ一気に戦線を離脱させられた。


 その光景を見ながら、ソラは一人遠い目をしながら呟く。


「あぁ、何かこの光景すっごいデジャヴを感じるんですけど、俺もあんな感じだったのね」


 すると、撤退を行うプルームとフリューゲルを追おうとする三騎のエスパダロペラ。


『ぼやっとするなソラ! 次はわしらで殿(しんがり)を務める』


「えっ、俺達も撤退するんじゃないのか?」


『阿呆、ある程度部隊を混乱させなければ撤退は成功せん。ここが正念場じゃ、いくぞ!』


「はあ、やっぱりこうなるかあ」


 殿しんがりという重要かつ危険な役割を担わされ、ソラは気重そうにぼやきながら、カレトヴルッフに剣を抜かせて構えた。


 すると次の瞬間、三騎のエスパダロペラ全騎の腹部に光矢が直撃し、空中で爆散する。


 そしてそれを行ったのは、ウィンであり、ウィンは一瞬のうちに両手に持った刃力弓(クスィフ・ドライヴアロー)から光矢を三発放ち、三騎のエスパダロペラを瞬く間に撃墜させたのだ。


 更にウィンは、敵部隊の懐に突撃すると、両手に持った刃力弓(クスィフ・ドライヴアロー)を交差させながら左右の二騎の腹部に光矢を直撃させ、続いて後方の一器に背を向けたまま頭部に光矢を直撃させ、先程撃墜させたのと合わせて計六騎ものエスパダロペラを撃墜させた。


 ――す、すごい。


 その驚異的な早撃ちと、白兵戦の距離で射術を行う類まれなる身のこなしと技量を目の当たりにし、ソラは目を見開き生唾を飲み込む。しかしソラが最も驚いたのは、いくらウィンも覚醒騎士とはいえ、先読み能力を持つ覚醒騎士相手にただの一発も射撃を外す事無く光矢を叩き込んだことに対してだ。


 ソラは一人考察する。自分は斬撃に比べまだまだ射術が拙い。だが、白兵戦における斬撃なら覚醒騎士相手にも当てられる。では射術と白兵戦で何が違うのかと。そしてウィンの動きを高速で思い返しながら、敵がウィンの、射術騎士の常識から外れた動きに反応出来ていなかった事、そして自分が白兵戦では無意識に行っている事を振り返る。


 ――射術で狙うのは敵じゃない、”意識の隙間”って事か。


 その答に到達した次の瞬間、ソラは再び炎装式刃力砲(クスィフ・ブレイズカノン)の砲身を展開し、前方のエスパダロペラ十数騎に向ける。


『おい、よさんかソラ!』


 ソラの行動を止めようとするヨクハの伝声が入る、何故なら抗探知結界(シャドウスフィア)を装備中かつ使用後は刃力をかなり消耗している為、刃力核直結式聖霊騎装を二発も使用するのは無謀であるからだ。しかし、ヨクハの静止も空しく、先程と同じように砲身の前に炎を纏った光が眩く集束され、赤く激しい光の奔流が放出される。

 

 それは単純な正面からの大技、その一撃は先程と同じように当たる訳が無い――筈だった。だが、十数騎のエスパダロペラの殆どが散開してその砲撃を回避する中、二騎のエスパダロペラが光と炎の奔流に飲み込まれて爆散した。


 砲撃はただの射撃と違い攻撃範囲が広い為、まだ拙いソラの射術でも敵の意識の隙間さえ縫えば当てる事が出来る。そして、ソラが狙った意識の隙間とは”抗探知結界(シャドウスフィア)装備中のソードが二度も砲撃をする筈が無い”という敵の思い込み……即ち油断であった。


「……そこだ」


 更にソラは操刃鍔そうじんがくを一杯に踏み込み、カレトヴルッフを最大速力で推進させると、砲撃を回避して孤立した一騎のエスパダロペラとの間合いを一気に殺した。そして、振り被った刃力剣クスィフ・ブレイドを袈裟掛けにはしらせ――左肩部から斜めに胴を両断させた。


 動力を破壊され、空中で爆散するエスパダロペラ。敵の虚を突く砲撃にて二騎を撃墜し、砲撃を回避して孤立した一騎を斬撃で撃墜。ソラが突如見せた一連の動き、そしてその成長にヨクハは目を丸くさせて驚いた。

62話まで読んでいただき本当にありがとうございます。


ブックマークしてくれた方、評価してくれた方、いつもいいねしてくれてる方、本当に本当に救われております。


誤字報告も大変助かります。これからも宜しくお願いします。



〈フロレント 諸元〉

[分 類] 宝剣

[開発地] エリギウス大陸

[所 属] なし

[搭乗者] ウィン=クレイン(射術騎士)

[属 性] 光

[全 高] 8.8m

[重 量] 9.1t

[武 装] 刃力弓クスィフ・ドライヴアロー×2  

     追尾式炸裂弾(アーティファクト) 耐実体結界(アブソリュートスフィア)



[膂  力] C

[耐  久] C+

[飛 翔 力] B+

[運 動 性] A+

[射  程] C+

[修 復 力] D

[総 火 力] B



[騎体解説]

 エリギウス王国時代に、エリギウス大陸にて開発された宝剣で、元エリギウス王国西天騎士師団長にして金色こんじきの死神の異名を持つウィン=クレインの専用騎。兜飾りクレストは短剣の刀身を額に着けたもので、角々しい軽装の鎧装甲を纏っている。基本武装は両手に所持する刃力弓クスィフ・ドライヴアロー追尾式炸裂弾(アーティファクト)のみで、刃力核直結式聖霊騎装はおろか刃力剣クスィフ・ブレイドすら装備していない異端な宝剣。装備を最低限にする事により、戦闘スタイルの為の運動性を限界まで高めさせている。

 ウィンは攻撃の殆どを刃力弓クスィフ・ドライヴアローにて行う騎士で、攻撃方法はその類まれなる身のこなしと射術技能により、二丁拳銃のように両手に持つ刃力弓クスィフ・ドライヴアローで変則撃ちを駆使しながら白兵戦を行うという、所謂いわゆるガンカタのような戦闘スタイル。

 光属性の特性上、刃力弓クスィフ・ドライヴアローの威力が上昇している為、単純な射撃だけでも、急所を狙う事で堅牢な装甲を持つ騎体であっても難なく撃墜さられる。

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