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60話 奪還作戦

『お、お待たせしました、スクアーロ師団長』


 五十騎近くのエスパダロペラを率いている赤い同器を操刃していたのは、ソラの、かつての騎士養成所時代の親友であるアイデクセであり、アイデクセはスクアーロに包囲完了の報告を行った。


 ソラが騎士養成所から追放となり、更にエリギウス帝国から逃亡した後程なくして、アイデクセはとある理由からスクアーロにその才能を見出され、第十二騎士師団〈連理の鱗〉に入団を果たしていたのだった。


 そしてソラと同じ蒼衣騎士であったアイデクセが操刃する、赤いエスパダラロペラの各推進器から放出される粒子から形成される騎装衣は銀色である。つまりは銀衣騎士への覚醒を果たしている事になる。


『ご苦労様ですアイデクセ、これでもう万に一つも逃げる事は出来ませんね』


「俺をどうするつもりだ?」


 身動きを封じられた状態で、命を奪わず生かされている事を不審に思い、フリューゲルがスクアーロに問う。


『ふふっ、あなたが僕に従う筈が無い事は解っています。だからすぐにあなたの記憶を抹消し、僕の可愛い操り人形にしてあげますよ』


 晶板越しに不気味な笑みを浮かべるスクアーロ。この状況を打破する可能性を見いだせずにいたフリューゲルは、歯をきつく喰いしばった後深く息を吐くと、諦めたようにそっと目を閉じた。



 するとその直後、上方から飛来する光矢が、フリューゲルのパンツァーステッチャーに巻きつく氷縛式射出鞭(プレデイトテンタクル)を貫き、切断した。


 予期せぬ事態に、スクアーロは光矢が放たれた方向に視線を向ける。するとそこには銀色の騎装衣をなびかせる、一騎の白いソードが浮遊していた。


 角々しい軽装の鎧装甲(がいそうこう)を纏い、兜飾り(クレスト)はエリギウス大陸産のソードを表す短剣、背部には推進翼の役割を果たす刀身の形状をした推進刃(すいしんじん)が四本、そして刃力剣も刃力核直結式聖霊騎装も装備しておらず、攻撃用の聖霊騎装として両手にはそれぞれ刃力弓(クスィフ・ドライヴアロー)を持っている。


「このソードは!」


 スクアーロはそのソードを見て驚愕の表情を見せた。


「フロレント……まさか操刃しているのはウィン先生なんですか?」


 そのソードの名は宝剣フロレント。かつてのエリギウス王国西天騎士師団長にして聖霊学士、金色(こんじき)の死神ウィン=クレインの愛刀であった。


『久しぶりですね、スクアーロ』


「その声はやはりウィン先生ですか……何故あなたがここに?」


 スクアーロがウィンに問いかけた直後、別々の方向から次々とソードが出現する。その数はフロレントを含めて計四騎。残りの三騎とはムラクモ、カットラス、そしてカレトヴルッフであった。


 するとカットラスは、関節が凍って身動きが封じられているパンツァーステッチャーの体を掴んで回収すると、フロレント、ムラクモ、カレトヴルッフの後ろに退避した。


「所属不明のソード、いつの間に……伝令員は何をしている!?」


 敵騎の出現を知らせない伝令員に向けて抗議の伝声を行うスクアーロ。


『敵騎こちらの探知器では探知出来ませんでした、今も探知器には映っていません!』


 だが、伝令員のその報告を受け、スクアーロは自身の騎体の探知器にも目の前の四騎のソードが映っていない事を確認し、それがある聖霊騎装によるものだという事に気付く。


「なるほど、これは抗探知結界(シャドウスフィア)を使用しているのですね」


 抗探知結界(シャドウスフィア)、それは隠密の特性を持つ闇の聖霊の意思を利用し、探知器への表示を阻害する隠密行動専用の聖霊騎装である。


 探知器への表示を阻害するという大きなメリットはあるが、一般的な戦闘であまり使用されないのには大きなデメリットも伴うからだ。それは、抗探知結界(シャドウスフィア)展開中は操刃する騎士の刃力を著しく消耗し、抗探知結界(シャドウスフィア)を展開していなくてもソードに装備しているだけで操刃者の総刃力量が半分以下に減少してしまうというものである。


 そしてスクアーロが目の前に出現した四器に告ぐ。


抗探知結界(シャドウスフィア)を装備しているソードで、この〈連理の鱗〉の本拠地に乗り込んで来るとは随分と舐めてくれるものですね」


 すると、スクアーロに対し相手から伝声と伝映が入る。


『悪いが、そこの阿呆は返してもらうぞ』


 その声と姿を見て、スクアーロは再び驚愕の表情を浮かべた。


 ーーこいつはあの時の……“ラドウィードの騎士”!? なるほどなるほど、二カ月前に第九騎士師団〈不壊(ふえ)(から)〉が壊滅させられた時に居たという、所属不明の騎士団というのは恐らくこいつらの事という訳ですね。


 スクアーロは、目の前のヨクハが、十年前に自分と戦いフリューゲル、デゼル、プルーム、エイラリィの四人を連れ去った謎の騎士である事を確信し、問う。


「一体あなた達は何者なんです?」


『わしらは独立傭兵騎士団〈寄集(よせあつめ)隻翼(せきよく)〉という、覚えておけ』


「〈寄集(よせあつめ)隻翼(せきよく)〉、新鋭の騎士団という訳ですか……それにしてもあなた、十年前と全く変わらない姿ですね、もしかして……」


『貴様こそ十年前と変わらぬ……腐りきった眼のままじゃな』


 スクアーロの考察に対し、皮肉で返すヨクハ。するとスクアーロはそれを意に返さずに皮肉で返す。


「お褒めに預かり光栄です。と……そんなことよりも一度に随分と懐かしい面々が現れたものですね、しかもそこの聖衣騎士さんは恐らく私の可愛い竜魔騎兵の一人じゃないですか? 顔を見せてくださいよ」


カットラスを操刃しているのが聖衣騎士であること、そしてカットラスがフリューゲルのパンツァーステッチャーを守るように抱えているのを見て、その操刃者が四人の竜魔騎兵の内の一人であるとスクアーロは確信する。



一方プルームは晶板越しに映し出されたスクアーロの目を見て思い出す。かつて自分達に向けられていた冷たく無機質なその視線に怖気を走らせ、沈黙を貫いた。



 直後、今度はスクアーロに対し、ウィンからの伝声が入る。


『スクアーロ、あなたは昔からあれもこれもと欲しがる子でしたね。それではいずれ全てを失うと教えた筈ですよ?』


「今更説教は間に合ってます。それよりも、この国から逃げ出し、その後も私から逃げ回っていたあなたが自らやって来るとはどういう風の吹き回しなんでしょうか?」


その問いに、ウィンは深く目を瞑り、深く息を吐いてから答えた。


『今さらですが、尻拭い……というやつですかね』




 ※      ※      ※



 二週間前。フリューゲルが再びヨクハ達の前から姿を消した後。ヨクハ達は本拠地の聖堂に集結していた。


 そしてフリューゲルの口から、来月、(はち)の月に第十二騎士師団〈連理の鱗〉が大規模演習を行い、その大規模演習を狙ってスクアーロとの決着を付けるつもりだと話していた事を全員に報せる。


「け、決着って、一人でそんな事出来る訳が!」


 ヨクハからの話を聞き、デゼルがたまらず声を上げる。


「当然スクアーロがそれを読んでいない筈がない。わしの見立てではフリューゲルはそこでスクアーロに捕えられるか殺される」


 ヨクハの忌憚の無い意見に、両手で口を覆いショックを隠し切れない様子のプルームと、無表情ながら俯くエイラリィ。


「ヨクハ団長、どうにかならないの?」


 デゼルが必死に、懇願するようにヨクハに詰め寄った。すると暫く沈黙し、大きな溜息の後でヨクハは返した。


「そうじゃのう……フリューゲルは強力な狙撃騎士じゃからな、ここで失うのはかなりの痛手じゃ」


「そ、それじゃあ」


「大規模演習の日を特定し、そこでわしらも奇襲を仕掛け、フリューゲルを奪還する」


 ヨクハがフリューゲルの奪還を考慮している事にほっとしたのか、デゼル、プルーム、エイラリィの三人は表情を少しだけ綻ばせた。


「え、でもその大規模演習の日って分かるのか?」


 そんな中、不意にソラが尋ねると、ヨクハが答える。


 通常、〈連理の鱗〉が大規模演習を行うのは月に一度だけある吹雪が止む日、その日ならば大方の予測が付くと。


 すると、今度は暫く黙っていたカナフが尋ねた。


「先程団長はシュトルヒの奪還作戦は奇襲によって行うと言っていたが、メンバーや援軍要請はどうするつもりだ」


「今回の作戦のメンバーは少数精鋭にて実行する。当然援軍要請も行わん」


 その思い切った決断に、たまらずソラが割って入った。


「援軍要請しないって本気なのか団長!?」


 対し、これはフリューゲルの私的な感情による単独行動であり、そしてその結果起きるであろう悲劇を止めようというのも自分達の都合によるもの、そんな事に同盟を結んでいる〈因果の鮮血〉を巻き込む訳にはいかないと、ヨクハ言う。


 そんなもっともな正論に、ソラは押し黙るしかなかった。


「えっと、じゃあその少数精鋭のメンバーっていうのはどうするつもりなんだ?」


 ソラは少しだけ気が重そうな様子でヨクハに問い掛けた。


 敵国の拠点に乗り込んでの奇襲、その作戦は当然かなりの危険を伴うものであり、自分がそのメンバーに選ばれやしないかと内心憂慮していた。しかし、それはあくまで最悪の想定であり、半ば安心はしていた。何故なら少数精鋭という言葉は自分にとって無縁であるし、そもそもフリューゲルは自分にとって大して知りもしない人間だからである。


「奇襲は四人で行う」


 ヨクハの言葉にソラは完全にホッとして胸を撫で下ろす。四人ならばソラの中ではメンバーはヨクハ、デゼル、プルーム、エイラリィで完全に決定であるからだ。


「メンバーは、まずはわし、プルーム、ソラ――」


「いや……ちょっと待て」


 想定外に自分の名前が突如呼ばれた事で、ソラはすかさず抗議の声を上げるのだった。

60話まで読んでいただき本当にありがとうございます。


ブックマークしてくれた方、評価してくれた方、いつもいいねしてくれてる方、本当に本当に救われております。


誤字報告も大変助かります。これからも宜しくお願いします。



[聖霊騎装解説]

氷縛式射出鞭プレデイトテンタクル

 凍結の特性を持つ水と、敏捷の特性を持つ風の聖霊の意思を組み合わせた盾付属型聖霊騎装。盾の内側に巻き取られる形で収納されている蛇腹状の鞭を高速で射出させ、相手に巻き付かせて捕縛する。そして捕縛したソードの関節を凍り付かせる事で動きを封じることが出来る。


 

抗探知結界シャドウスフィア

 全部で三種ある結界系の聖霊騎装の内の一つ。この結界を装備する事により探知器に捉えられることを阻害する効果がある。

 隠密行動をする上では非常に有効ではあるものの、この結界を装備すれば他の二種類の防御系結界を装備出来なくなる為、防御力という点において著しく低下を招いてしまう点、装備しただけで操刃者の総刃力量を半分に低下させてしまう点、結界発動中は刃力を大量に消費してしまい活動可能時間を大幅に低下させてしまう点。

 以上の理由から、探知器に映らなくなるという大きなメリットがありながらも他の二種類の結界に比べて実戦での使用頻度は低い。

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