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55話 それぞれの覚醒

 ――瞬間、フリューゲルがデゼルに突進し、その一撃を咄嗟に回避させた。


「何ぼーっとしてんだよデゼル!」


「……フリュー」


「俺達はこいつに騙されてたって事だろ! 勝手な理由で生み出されて、今度は勝手な理由で殺されて、そんなんでいいのかよ? いいわけねえだろ!」


 ショックで気力を失いかけているデゼルに対し、必死に呼びかけるフリューゲル。するとデゼルはある事に気付く。


「フリュー、君……血が」


 フリューゲルはデゼルに突進し押し飛ばした際、ラッザの斬撃が左腕を僅かに掠め、それにより左上腕部から流血していたのだ。


「このような状況で仲間を鼓舞するとは、お前はこのまま成長していれば良い騎士になれたかもしれないが、残念だ」


 そう嘆きながら、ラッザは再度剣を振り上げ、目の前のフリューゲルに対し振り下ろした。


「なっ!」


 しかし、その一撃は何かに遮られる。ラッザは驚愕の表情で目前のとあるもの(・・・・・)を凝視していた。


 ラッザの一撃を遮った物、それは半透明の光り輝く盾で、ラッザとフリューゲルの間に出現していたのだ。更に、デゼルの額には剣の紋章が輝いていた。


「フリューの言う通りだ、このまま黙って殺されるなんてまっぴらだ。皆は……仲間は僕が守る」


「デゼル……お前」


 フリューゲルはデゼルの方を振り返りながら、突然の光景に口をぽっかりと開けていた。


「これは竜殲術(りゅうせんじゅつ)、まさか銀衣騎士への覚醒を飛び越えて聖衣騎士へと覚醒するとは……竜魔騎兵、やはり成功していたのか」


 何かを悟ったように静かに呟くラッザ。


 すると直後、デゼルは腰の鞘から剣を抜き、一気にラッザとの間合いを殺し、横薙ぎを放つ。


 火花を散らしながら交差されるラッザの剣とデゼルの剣。


 身のこなし、剣速、それは今までのデゼルのものとは別物である。そして覚醒騎士としての身体能力は、大人と子供の絶望的な力量の差を埋めていた。


「フリュー、プルーム、エイラリィ、僕がラッザ先生と斬り合う。だから君達は援護を頼む」


 デゼルの叫びに、これまでの一瞬のやりとりを茫然と見ていることしか出来なかったプルームとエイラリィも反応した。


「わかったよデゼル、絶対絶対死なないでね」


「わかりました。デゼルに当てないように善処します」


 そう言いながら、プルームとエイラリィはラッザを挟むようにして距離を取り、背中に背負っていた弓銃を構える。


 するとフリューゲルは自身の腰に差している剣を一瞥(いちべつ)した後、すぐに背中の弓銃を手に持ち、プルームとエイラリィよりも更にラッザから遠ざかり、崖の上に位置を取った。


 ――嫌いだった弓だけど、今は四の五の言ってる場合じゃねえ。今俺に出来る事をするんだ。


 そしてフリューゲルはラッザに向けて弓銃を構える。



 一方、ラッザとデゼルの戦闘。


 ラッザは三方向から飛んでくる矢を剣で弾きながらデゼルの斬撃も捌いていく。


 更に、四者の攻撃の間隙を縫ってデゼルに反撃するラッザ。ラッザの右上段からの袈裟斬りがデゼルに襲い掛かる。


「ハアアアッ!」


 デゼルはそれを光の盾を出現させて防ぐが、反撃には繋がらず一旦距離を空けた。


しかしそこへラッザの追撃。放たれる瞬速の連撃を再度光の盾で防ぐデゼル。だがその連撃の隙を突けず、防戦一方となる。


 デゼルは聖衣騎士に覚醒したとはいえ、単純な膂力や剣技はラッザの方が遥かに上を行っていた。


 更に体格の差は明らかで、ラッザの一撃を剣で完全に受けきる事が出来ないデゼルは、先程覚醒したばかりの竜殲術(りゅうせんじゅつ)を使用して防御する事しか出来ないのだが、竜殲術(りゅうせんじゅつ)の使用は刃力の消耗が激しく、まだ力に覚醒したばかりのデゼルの刃力は光の盾の多様により既に尽きかけていた。


「はあはあはあ」


 片膝を付き、激しく肩で息をしながら多量の汗を流すデゼル。誰の目にも限界が近い事は明らかであった。


「どうした? 先程の啖呵は口だけか?」


 直後、ラッザは身を捩り背後から飛んできた矢を躱す。


 ――今のは、少し危なかったな。


 三方向から飛んでくる矢、その中で明らかに精確無比にラッザの急所を狙う矢があった。それはフリューゲルの放つ矢である。感情が届き辛い遠距離から、矢が届くぎりぎりの射程を保ち精確にラッザの急所を狙い続ける。


 ――こっちに意識が集中してる、これじゃ当たらねえ。けどもうデゼルは限界だ。どうすればいい? どうすれば?


 その時、ラッザに飛来する無数の何か(・・)。ラッザはそれを高速の連続斬撃で叩き落としていく。それは(つぶて)であり、礫はプルームが位置する方向から放たれていた。


「ほう、次はお前か」


 ラッザがプルームに視線を向けると、プルームの周囲には無数の礫が浮遊しており、更にプルームの額には剣の紋章が輝いていた。


「家族を守りたいのはデゼルだけじゃないんだから」


 礫はプルームの眼前に五つ浮遊し、そして次々と高速で発射されていく。しかし、ラッザはその弾丸の如き礫を身のこなしで全て回避する。


「物体を操る能力という訳か、だがこれでは弓銃で矢を撃っているのと何ら変わりは無い」


 ラッザがそう指摘した次の瞬間、プルームの眼前に再度浮遊した五つの礫が、プルームの周囲を高速で旋回し始める。更に礫は航跡を引きながら、縦横無尽にラッザの周囲を飛び交い始めた。


「ほう」


 そして、ラッザの周囲を飛び交う礫は、前方、後方、上方、側方、あらゆる角度から襲い掛かった。


「全方位攻撃か!」


 ラッザはプルームの操る礫による全方位攻撃を紙一重で回避しながら、次々と放たれるそれを斬撃で撃ち落していき、やがて五つ全ての礫が撃ち落されてしまった。


 それでもプルームは再度礫を操作し、ラッザの周囲を包囲する。


「まるで思念操作式飛翔刃(レイヴン)……だがな!」


 そう言うとラッザは右腰の鞘からも剣を抜き、左右の手に剣を持ち、二刀にて構えた。


 スプレッツァトゥーラ流剣術。それはオルスティア五大流派とは別の、孤島タリエラに伝わる流派であり、双剣を用い舞踏の如き身のこなしにより敵を翻弄、強襲する剣術である。


 ラッザは双剣による剣捌きにより、飛来する礫を軽々と弾きながら、プルームとの間合いを詰めた。


「対策は既に修得済みだ」


 剣の間合いまで接近されことにより、プルームは礫の射出が出来なくなっていた。


 無防備な状態となったプルームに対しラッザが双剣を振りかぶり、プルームは自身が受けるであろう一撃を悟り、両の目を固く瞑る。


「姉さん!」


 エイラリィの叫びがこだます。


 しかし、その一撃はラッザとプルームの間に出現した光の盾により遮られる。デゼルの額には再び剣の紋章が輝いており、デゼルは再度竜殲術(りゅうせんじゅつ)を使用し、プルームを守ったのだった。


「ハアッハアッハアッ!」


「まだそんな力が残っていたとは驚いたぞ」


 力を使い切ったと思っていたデゼルの抵抗に、ラッザは僅かに称賛するかのように呟いた。


 すると遠方から弓銃を構え、しばらく矢を放たずラッザに狙いを定め続けていたフリューゲルが、遂に引き金を引いた。


「ようやく見せやがった(・・・・・・・)な」


 そしてその額には剣の紋章が輝いている。


 フリューゲルには、ラッザと他の三人には黙っていた秘密があった。フリューゲルは、一年程前から自身がある力に目覚めていたことを自覚していた。


 ある日を境に突然体が軽くなり、誰よりも疾く走れ、誰よりも高く飛べ、誰よりも強い膂力が備わっていた。


 額に剣の紋章が輝くと、遮る物があってもどこまでも先まで見通せた。更にはもう一つ見える物(・・・・)があった。


 しかしフリューゲルはそれをひた隠した。なぜなら自身の竜殲術(りゅうせんじゅつ)は明らかに白刃騎士向けの能力ではなく、自身が憧れる騎士と同じ騎種にはなれない。そして何より自分だけが聖衣騎士に覚醒したと知れれば、きっと他の三人と離ればなれになる。


 フリューゲルは力に覚醒してからもまだ聖衣騎士ではなく、蒼衣騎士であることを装い続けたのだった。


 だが、抱く憧れを捨て、生きる為に最善を尽くす。仲間を、家族を守る為に、拒み続けた狙撃騎士として、フリューゲルは力を使った。


 フリューゲルの能力は遠見と透視、そして備わっていたもう一つの能力は、相手の意識が集中している部分を色の濃さで見る事が出来る能力であった。


 最初の狙撃が失敗して以来、ラッザは全方位に意識を集中しているのがフリューゲルには分かった。だがそれでもラッザの意識の色が薄くなる瞬間を伺っていたフリューゲルは、プルームとデゼルに意識が向き、意識の死角が出現した瞬間を見逃さなかった。


「なっ!」


 ラッザの腹部に深々と突き刺さった矢。ラッザは反応が遅れた事に驚愕したように腹部を押さえながら片膝を付いた。


「今だデゼル!」


55話まで読んでいただき本当にありがとうございます。


ブックマークしてくれた方、評価してくれた方、いつもいいねしてくれてる方、本当に本当に救われております。


誤字報告も大変助かります。これからも宜しくお願いします。


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