48話 もう一人の騎士
「え、パルナちゃん、もしかしてこの人ってパルナちゃんの知り合いなの?」
パルナと声の主との会話から、二人が知り合いである事を確信し、ソラとカナフは突撃を一旦中断していた。
『えっと、フリューゲルはうちが〈寄集の隻翼〉を結成する前に、ツァリス島の孤児院で一緒に暮らしてたメンバーの一人なの。半年以上前にツァリス島を出て行って、それからは音沙汰無かったんだけど、まさかこんな所に居るなんてね』
それを聞き、カナフがフリューゲルに交渉を持ちかける。
「俺達はこの島に調査に来ただけだ、お前に危害を加えるつもりは無い。とりあえずはその島に降り立ちたいのだがいいか?」
『ちっ、勝手にしろ』
※
突如始まりかけた戦闘は、期せずして終了し、ソラとカナフは陰雲に姿を隠されたその島に降り立つのだった。
陰雲を抜けると、突然島の姿が顕わになる。非常に小さな島ではあるが、水の群島と呼ばれるメルグレインの島の一つであるそこは、殆どが湖で占められており、そこから流れる川が島の端から空へと落ちて虹を作り出し、非常に幻想的な風景を醸し出す。
そして僅かに存在する陸地には木々等の緑が生え、そこには一振りのソードが立っていた。
紫を基調としたカラーリング、各所に角のように尖った鎧装甲を纏い、兜飾りは一角馬のような一本角を額に着け、背部には円錐状の鋭く細い刀身の形状をした推進刃が四本。そのソードの騎体名はパンツァーステッチャー、狙撃戦及び射撃戦を得意とする、主にメルグレイン群島で使用される量産剣である。
ソラとカナフは騎体をパンツァーステッチャーの前に降り立たせ、鎧胸部を開放して島に降り立った。それを見て、パンツァーステッチャーを操刃していたであろう人物もまた、鎧胸部を開放させ、ソラとカナフの前に降り立った。
メルグレイン群島の民の特徴である藍色の髪と水色の瞳を持つその少年は歳の頃は十五歳であるソラと同じか少し上といったところ。良く言えば目付きが鋭く、悪く言えば目付きが悪い、しかしながら端整な顔立ちである。
「何故お前はこの島に入ろうとする者を追い返していた?」
カナフが尋ねると、フリューゲルは面倒くさそうに溜息を吐き、後頭部を掻きながら答えた。
「この島はようやく見つけた俺の住処だからな。しかも俺はメルグレイン王国側の〈因果の鮮血〉から、このパンツァーステッチャーを盗んだお尋ね者だ、面倒臭そうな事になるのが分かってたから誰も近付かせないようにしていただけだ」
「〈因果の鮮血〉からソード盗んだ奴が居るって言ってたけど、やっぱこいつだったのか」
フリューゲルとパンツァーステッチャーを見ながら呆れたように言うソラ。
「んで、てめえらは例の騎士団……寄せ集めの何たらってのの新参者か?」
その問いに、ソラとカナフが答える。
「〈寄集の隻翼〉な、結成されたのがちょうど四ヶ月くらい前で、俺はその一ヶ月後、今から三ヵ月前に入団したんだ」
「俺は結成されたその月に色々あって入団した」
すると、突然不満気に舌打ちをするフリューゲル。
「それにしてもようやく騎士団を結成したと思ったら、蒼衣騎士の奴が入団して騎士をやってるなんて完全な人手不足じゃねえか」
それは明らかにソラに対する皮肉であり、ソラは少しだけムッとしながら返す。
「人手不足なのはお前がツァリス島を出る前から分かってた筈だろ? あとうちの団長も蒼衣騎士だからな言っとくけど」
「団長が蒼衣騎士……そうか、やっぱりヨクハ姉が団長やってんのか」
「ヨクハ姉? あ、そっか、この騎士団の皆はツァリス島の孤児院出身だったんだっけ?」
「ああ、俺達はヨクハ姉とシオンさんに引き取られて育てられたからな」
すると首を傾げ、不思議そうな表情を浮かべるソラ。以前から引っかかっていながらも切り出せずにいた事があったからだ。
「そういえば前から気になってたんだけど、皆が孤児として引き取られたのって十年前だろ? 子供が子供の面倒を見てたって事?」
「あ? どういう意味だ?」
「だって十年前だったらヨクハ団長も子供だろ? どう見たって皆と同い年くらいだし」
「何言ってんだ、ヨクハ姉は十年前から今と変わらねえ姿だぞ」
「えっ!」
ソラがフリューゲルの何気ない一言に驚愕した瞬間、フリューゲルとカナフは揃って上空に視線を向けた。この島に高速接近してくる“何か”を感じ取ったからだ。
「何かが来るぞ」
カナフの呟きに、ソラもまた追随するように空を見上げる。
「何かって何? 敵とかそういうパターン?」
「そこまでは分からん」
すると、フリューゲルの額に突如剣の紋章が輝いた。それはフリューゲルが何らかの竜殲術を使用したのを示唆している。
「あ、あれはまさか!」
直後、島に接近してくる何かの詳細に気付いたのか、ぎょっとしたように青ざめた表情のフリューゲル。
「見えているのか?」
そんな様子から、フリューゲルの能力の性質にカナフは既に辿り着いていた。
――そうか、こいつの能力は恐らく遠見と透視。この能力が超長距離狙撃を可能にしていたのか。とはいえ照準固定なしの狙撃式刃力砲であれ程の精確な狙撃を行うとは末恐ろしいな。
フリューゲルの持つ竜殲術の能力を確信し、それを抜きにした狙撃騎士としての実力にも気付き、カナフは心中で驚嘆の意を示した。
そして同時に、フリューゲルの動揺からソラとカナフはすぐさまカレトヴルッフとタルワールにそれぞれ搭乗し、動力を起動させた。すると探知器には一騎のソードの接近を知らせる印が映し出されており、ソラはすぐに本拠地のパルナに伝声を行う。
「パルナちゃん、どっかのソードが一騎近付いて来てる!」
『あ、やっと繋がった、そのソードはね――』
次の瞬間、上空にそのソードの姿が現れ、更に高速で接近して来た。そしてそのソードの正体はヨクハのムラクモであった。
島に降り立ったムラクモ、その鎧胸部が開かれ、先程から固まったままのフリューゲルの前にヨクハが降り立った。
「……よ、ヨクハ姉」
「久しいのうフリューゲル、逃げも隠れもせんとは随分といさぎが良くなったもんじゃのう、ん?」
「ちっ、ヨクハ姉のムラクモは飛翔力に長ける宝剣だ、この位置関係じゃどうあがいても逃げ切れねえからな」
直後、ふてぶてしくそっぽを向いて答えるフリューゲルをヨクハは優しく抱き寄せた。予想だにしなかった行動なのか、フリューゲルは顔を赤くし、激しくたじろいだ。
「八ヶ月も連絡をよこさず何をしておった、心配しておったんじゃぞフリューゲル」
「お、おい……ヨクハ姉」
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